三洋電機は2008年10月17日,表参道のMoMA Design Storeで同社製品の販売が始まるのに合わせて(発表資料),製品デザイン・コンセプトに関する記者説明会を行った。会場にはMoMA Design Storeが3階に入居している表参道のファッション・ビルの地下1階,オーガニック・カフェとして若い女性に人気の飲食店を選び,通常の製品説明会とは異なった雰囲気を演出した。

今回の説明会場。カフェのテーブルにeneloopが並ぶ。eneloopの青いパッケージは地球や海を表現したものという。命(電池)が海に包まれているイメージだとか。
今回の説明会場。カフェのテーブルにeneloopが並ぶ。eneloopの青いパッケージは地球や海を表現したものという。命(電池)が海に包まれているイメージだとか。 (画像のクリックで拡大)

 「ダサい,統一感がなくバラバラ,品がない,インテリアと合わない。かつて当社の製品デザインはこんな評価を受けていました」。マーケティング本部 アドバンストデザインセンター所長の清水正人氏は,やや自虐的に振り返る。数年前のアンケート調査で同社の製品デザインに寄せられた感想は「悲惨だった」(同氏)。社内の意識が変わり始めたのは,同社が「第三の創業」と位置づけ,「Think GAIA」を全社的なテーマに定めた2005年のことだという。

 地球環境との調和や共生を目指し,全社で一貫したテーマを掲げた三洋電機は,製品デザインにも調和や一貫性といったコンセプトを取り入れるようになった。「これまでは,店先で他社製品と差別化するためのデザインという向きもあったが,ユーザーが実際に製品を使う場面との調和などに重きを置くようになった」(清水氏)。例えば,ニッケル水素2次電池「eneloop」のパッケージ・デザインは,既存の電池パッケージからは大きく変わった。従来のように,性能を示す数値を大きく記すのではなく,シンプルに製品ロゴをあしらう。素材も紙やPET(ポリエチレンテレフタレート),アルミニウムで構成していた従来パッケージとは異なり,再生PET単一素材とした。「電池の保管ケースとして手元に留めて使ってもらうことを前提としているが,リサイクルもしやすくなった」(同氏)。

三洋電機 マーケティング本部 アドバンストデザインセンター所長の清水正人氏。プレゼンテーション用のデータが入ったパソコンもやっぱり白(ただし他社製品)。サングラスが懐かしいフラワーロック(FLOWER ROCK 2.0)はタカラトミーから税込6090円で発売予定。
三洋電機 マーケティング本部 アドバンストデザインセンター所長の清水正人氏。プレゼンテーション用のデータが入ったパソコンもやっぱり白(ただし他社製品)。サングラスが懐かしいフラワーロック(FLOWER ROCK 2.0)はタカラトミーから税込6090円で発売予定。 (画像のクリックで拡大)

 統一感も以前に比べると増している。例えば,eneloopのロゴの書体は,ほかの製品にも使われているし,各製品の筐体色は白を基調にしたものが増えた。タカラトミーから2008年10月30日に発売される「FLOWER ROCK 2.0」は三洋電機がデザインを手がけたが,これもLEDが点灯しないときは鉢も葉や花びらも白一色というデザインである。三洋電機では製品カタログや会社案内,WWWサイトなども同様に色合い,書体を統一している。

 こうした改善が実を結んだか,2006年から三洋電機のグッドデザイン賞の受賞率(応募数に対する受賞数の割合)は64.0%,67.7%,72.0%と年々上昇している。「社外から高い評価を受けるようになったことで,社内でのデザイナーの発言力が高まり,またデザインが良くなっていくという流れが生まれた」(同氏)。かつては営業担当者の意向が製品デザインに影響しやすい傾向があったというが「最近はデザイナーがそれに異を唱えられる雰囲気になった」(三洋電機 広報)。

 2007年には組織も変更している。2007年3月までは製品部門ごとに分かれた社内カンパニーの下に置かれていた各デザイン部門を同年4月,本社のブランド部門アドバンストデザインセンター下に集めた。現在は,新製品のデザインを検討する際は様々な部門や全国各地の事業所からデザイナーがコンペ形式でデザイン案を出し合い,部門横断的なデザイン開発プロジェクトが立ち上がるような体制ができたという。

MoMA(ニューヨーク近代美術館)と三洋電機は,MoMA商品の日本販売を三洋電機が担う形で2004年から協業してきたが,MoMA Design Storeのバイヤーの目にかなって三洋電機の製品が店頭で特集展示されるのは今回が初めて。店内に並ぶ電子機器は「Harman Kardon」のスピーカや「±0」の加湿器など,デザイン性の高いものばかり。
MoMA(ニューヨーク近代美術館)と三洋電機は,MoMA商品の日本販売を三洋電機が担う形で2004年から協業してきたが,MoMA Design Storeのバイヤーの目にかなって三洋電機の製品が店頭で特集展示されるのは今回が初めて。店内に並ぶ電子機器は「Harman Kardon」のスピーカや「±0」の加湿器など,デザイン性の高いものばかり。 (画像のクリックで拡大)

 三洋電機では,冒頭の「悲惨なアンケート」以降,デザインに関する新たな調査は行っていないそうだが「今度実施するときには,少し違う結果が出るのではないかと期待している」(清水氏)。

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