COLLEGE 製造業の“本当”を探求
 

日本人ノーベル賞受賞記念 特別インタビュー

小柴昌俊氏

Tech-On!
2008/10/15 17:27
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「本当にやりたいことであれば,どんな困難も乗り越えられます」
本稿は,「半導体・FPD産業からのメッセージ」,日経マイクロデバイス特別編集版,2007年11月発行,pp.6-7から転載しました(写真:柳生 貴也)

日本人科学者が立て続けにノーベル賞を受賞したニュースは,日本中を大いに沸かせた(Tech-On!関連記事1同関連記事2)。特に,理科好きの子供を増やすチャンスだとする,教育界の期待は大きい。理工系の学生やメーカーの研究者・技術者にも,今回の4人のノーベル賞受賞は刺激を与えそうだ。科学技術の分野で成果を収めた技術者・研究者には,「当初予測さえしなかった幾多もの困難を乗り越えてきた」という共通点がある。2002年にノーベル物理学賞を受賞した小柴昌俊氏は,「自分が本当にやりたいことであれば,どんな困難も乗り越えられる」と説く。そして,「自分が本当にやりたいことを,ぜひ見つけてほしい」と,若手技術者や学生にメッセージを送る。(田中 直樹=Tech-On!)

 最初は,大学の物理学科を受ける気がありませんでした。ところがある日,「小柴は物理の成績が悪いから,間違っても物理学科は受けない」と,先生が別の生徒に話しているのを偶然聞いてしまったのです。それがとてもくやしくて急きょ志望を変えました。当時,物理学科に入るためには,その高校で上位10%ぐらいの成績が取れなければ難しいといわれていました。私の成績は半分ぐらい。1カ月間猛烈に勉強し,なんとか入ることができました。ところが,戦後間もないころで食うのに困っていたことから,1週間に1~2日しか講義を聞きませんでした。卒業成績はピリに近かったですね。

 その後,大学院に入り「英国で発明された高感度の写真乳剤を使って素粒子の実験をやらないか」と誘われたのです。宇宙線が多く当たる富士山に行き,写真乳剤を塗ったガラス板を1カ月露出するというものです。できた像を顕微鏡で見たところ,講義でしか聞いていなかったさまざまな素粒子を確認することができたのです。これなら私にもできると確信しました。

 苦労もありましたが,自分が本当にやりたいことであれば,どんな困難も乗り越えられます。若い人に言いたいことは,自分が本当にやりたいことをぜひ,見つけてほしいということです。

 基礎科学を学問として絶えさせないためには,学生がやりがいを感じるような実験設備を国内で用意しなければいけないと思いました。地下深くにきれいな水をため,陽電子が割れたときに出るチェレンコフ光を検出できる設備があれば,「陽電子崩壊」が捕らえられる。そうしたら間もなく米国でも同様の方法で実験を進めていることが分かりました。しかも米国の方が予算は多く,水の量も数倍多い。陽電子崩壊を見つけたら,それこそ大発見でノーベル賞も約束されますが,当たるかどうか分からない宝くじを買うようなものです。元々の予算範囲内でどうやって米国と戦える状況に持っていけるか,私は必死に考えました。

 そこで出た結論が,ケタ違いに感度の高い検出器(光電子増倍管)を新たに開発することでした。米国の規模に対し,こちらは感度で勝負するというわけです。浜松ホトニクスの社長を説得し,1年も経たないうちに低エネルギーの原子まできれいに観測できる高感度の検出器を実現しました。それを見て私はピンときました。世界中の学者が頭を悩ましていた「太陽ニュートリノの謎」が解けるのではないかと。

 人は本気になって考えると,勘どころが良くなるのです。いいですか。雑音を抑えられるようにしてニュートリノを観測し始めたのが1987年の初めです。そのわずか2カ月半後に超新星爆発が起こり,そこで放出されたニュートリノを捕らえることができました。1989年には太陽からのニュートリノを観測, 1991年には理論だけで実験的証拠がなかったニュートリノ振動を発見することができました。予想していたことがすべて当たったわけです。

 私が助教授に着任したときのことで覚えているのは,ほとんどの学生が成績は優秀だが単位,点のことばかりを気にしていたということです。しかし筆記試験の点は先生から教わったことを答案に書く,受身の認識能力を評価しているにすぎません。やはり,自分から能動的にやることが大事です。それを養うために何かできないかと提案したことが二つあります。一つは,夏休みの希望実験です。研究室で余っている装置を使い,授業がない夏休みに自分で計画して実験データを取り,分析するというものです。これは点や単位には反映させませんでしたが,実際には希望者がたくさんいました。

 もう一つは,大学院の合格者を決める際に面接を導入したことです。一人に10分ぐらい使って,その学生のやる気を採点しました。従来からある筆記試験をx軸,面接点をy軸として,両方を考慮して合否を判定するようにしました。それで筆記試験はだめでも面接では良い学生を評価することができます。私の後を継いで「スーパーカミオカンデ」で成果を出した教え子も,これで救われた一人です。(談)

略歴
小柴 昌俊 氏

1926年 愛知県生まれ。1951年 東京大学理学部物理学科卒業,1955年 ロチェスター大学大学院修了,1958年 東京大学助教綬(原子核研究所),1963年 東京大学助教授(理学部),1967年 東京大学理学博士取得,1970年 東京大学教綬(理学部),1974年 東京大学理学部附属高エネルギー物理学実験施設長,1977年 東京大学理学部附属素粒子物理学国際協力施設長,1984年 東京大学理学部附属素粒子物理国際センター長,1987年 停年退官,1987年 東京大学名誉教綬,1987年~1997年 東海大学理学部教授,1994年 東京大学素粒子物理学国際研究センター参与,2002年 日本学士会会員,2003年 平成基礎科学財団設立,理事長就任,2005年 東京大学特別栄誉教綬,現在に至る。

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