スピーカーで構成するバーチャルなオーケストラ
スピーカーで構成するバーチャルなオーケストラ
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バーチャルなオーケストラの中を歩いてみた
バーチャルなオーケストラの中を歩いてみた
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残響音もスピーカーで再生,臨場感向上にひと役


 リードサウンドによれば,2チャネル(つまりステレオ)や5.1チャネルといったスピーカー・システムの音は音質を高めたとしても,さまざまな楽器の合成音がスピーカーから出力されることには変わらないのに対し,今回のサウンド・システムは合成されない音が空気中で合成されることから「生の演奏」を聴いた感じになるという。本物のオーケストラなど生の演奏では,各楽器の音は空気中で合成されて観客に伝わっており,これと同じとする。

 64個のスピーカーの内訳は,各楽器に割り当てるスピーカーが46個,ボーカル用(楽曲によってはトランペットの音も担当)が4個,低域の音を補強するためのサブウーハが6個,残響音を発するためのスピーカーが8個(左右の壁際にそれぞれ2個,天井に4個)である。バーチャルといえども,コンサート・ホールで聴いているように観客が感じるようにするには,楽器から直接伝わる音以外に残響音といった演奏環境に起因する音が必要になる。そのため,システムでは残響音用のスピーカーを設けた。残響音用のスピーカーから発する音は,システムを設置する場所ごとに調整して作成しているという。「サウンド・システムの設置場所がどのようなところであっても,残響音を調整することで同じように聴こえる環境を作り出せる」(リードサウンド 代表取締役の石河宣彦氏)。

楽曲を作るために8カ月も要した


 サウンド・システムで再生する楽曲は64チャネルのため,CDといった既存のコンテンツではなくすべてオリジナルになる。コンテンツ作成において,ボーカルなどの人間の声は容易に録音できるが,オーケストラで演奏する楽曲を楽器ごとに録音するのは「1回の演奏に300万円も掛かる」(コンテンツ作成を担当したヒビノTICの宮本宰氏)ために現実的ではない。そのため,オーケストラの楽曲はすべてコンピュータで作成した電子音を使う。「楽譜を入手し,楽器ごとの音を作り出した」(同氏)。

 ただし,楽譜から電子音を作成するだけでは,演奏者が奏でる本物の音とはいえない。倍音成分がないなど,楽器特有の音色ではないからだ。このため,楽譜から電子音を作り出した後で,楽器特有の音になるように加工した。この加工の作業が大変であり,今回の演目にあるベートーベンの交響曲「運命」の音楽データの完成には8カ月掛かったとする。

自動演奏ピアノをオーケストラにグレード・アップも


 リードサウンドによれば,このサウンド・システムは音楽教育への応用,例えば小学校の音楽授業でオーケストラを簡便なかたちで学べるようにするといった使い方のほか,アロマテラピーやプラネタリウムといった「癒し空間」などにオーケストラの演奏を加えるといった用途を考えているという。

 前者の音楽教育への応用では,サウンド・システムの実演は期限付きで行われるが,常設して頻繁に実演できるように検討している。後者は,ホテルやオフィスのロビーなどで見掛ける自動演奏ピアノのオーケストラ版といったところであろう。本物のオーケストラを呼んでコンサートを開催するのに比べて,バーチャルではあるが簡便にオーケストラの演奏を楽しめる場を提供できるとみられる。さらに,このサウンド・システムが広まれば,サウンド・システムに向けたオリジナル・コンテンツの配信サービスといった展開も考えられる。