図1◎新しい無電解金めっき法によってめっき膜を形成したポリエステル布(左)とポリイミド・フィルム(右)。
図1◎新しい無電解金めっき法によってめっき膜を形成したポリエステル布(左)とポリイミド・フィルム(右)。
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図2◎触媒として利用した白金コロイドの外観。
図2◎触媒として利用した白金コロイドの外観。
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図3◎カーボン薄膜上に固定化した白金ナノ粒子(a)と,それを触媒として形成された金微粒子(b)。無電解めっきの開始後10秒後の様子だ。
図3◎カーボン薄膜上に固定化した白金ナノ粒子(a)と,それを触媒として形成された金微粒子(b)。無電解めっきの開始後10秒後の様子だ。
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図4◎無電解めっきによって起きる金イオンの還元反応。
図4◎無電解めっきによって起きる金イオンの還元反応。
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図5◎ポリエステル布(上)とポリイミド・フィルム(下)の無電解金めっき前後での色調の変化。サンプルとして,5×5cmの布とフィルムを使用している。
図5◎ポリエステル布(上)とポリイミド・フィルム(下)の無電解金めっき前後での色調の変化。サンプルとして,5×5cmの布とフィルムを使用している。
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 産業技術総合研究所(産総研)は,シアン化合物を使うことなくさまざまなプラスチック基材に密着性の高い皮膜を形成できる無電解金めっき法を開発した(図1)。産総研ナノテクノロジー研究部門ナノ科学計測グループ主任研究員の堀内伸氏と,元主任研究員の中尾幸道氏によるものだ。同氏らは,シアン化合物を使わない無電解金めっき反応を発見。産総研が開発した白金コロイドを触媒として使うことにより,常温においても短時間でめっき反応が進行し,かつ高い密着性を得られる無電解金めっき法を開発した。

 従来の無電解金めっきは,青酸カリを含むシアン化合物を使用するため毒物としての管理が必要で,環境への負荷も高い。生産性の観点からみても,工程が複雑なのが課題だった。具体的には,めっき後のめっき被膜の密着性を得るために,表面を荒らす工程が必要で,プラズマ処理など高度な真空装置を利用した表面処理方法や,危険度の高い酸化剤を使う化学処理方法を適用する。その後,触媒となるパラジウムなどを基材の表面に固定化する処理を経て,溶液中の金属イオンを化学的に還元することにより,金属皮膜を形成する。

 それに対して新しい金めっき法では,粒径が数nmの白金ナノ粒子が水中に分散した白金コロイドを触媒として採用した(図2)。これは,産総研が持つ貴金属ナノ粒子をポリマ表面に固定化する手法を応用したものだ。この白金コロイドでは,ポリマに覆われた直径約3nmの白金ナノ粒子が水中で安定して分散している。ここにプラスチックなどの基材を浸漬すると,白金ナノ粒子が基材表面に均一に固定化される〔図3(a)〕。同グループでは,この基材を低濃度の過酸化水素と塩化金酸の混合水溶液に浸漬すると,白金ナノ粒子の触媒作用によって過酸化水素水が塩化金酸を還元することを見出した。

 過酸化水素水が金イオンを還元して,固定化された白金ナノ粒子上に金微粒子が析出し,時間とともに金微粒子の数が増えて皮膜が形成されていく〔図3(b)〕。これは,基材に固定化した白金ナノ粒子の触媒作用によって金イオンの還元反応が進行するため,と考えられる(図4)。

 触媒として使用した白金ナノ粒子は高い触媒活性を持つため,常温でも金めっきが進み,数分で完了する。さらに,めっき後に100~250℃で約30分間加熱すると,めっき皮膜の密着性が強固になるという。加熱処理によって得られるめっき膜は,JIS K5600-5-6に則ったテープ剥離試験でもまったく剥離しない程度の強度を備える。

 この無電解金めっき法を採用することで,特殊な薬品や装置を使うことなく,さまざまなプラスチックに強固な金めっき膜を形成できる。産総研では,ポリエチレンやポリプロピレン,ポリアミド,ポリエステル,ポリイミド,ポリカーボネートなどのプラスチックについて,密着性の高い金めっき被膜を得られることを確認している(図5)。さらに,ゴムやセラミックス,ガラス,炭素材料にも応用が可能という。