白色LEDなどGaN系発光素子を巡り係争関係にある日亜化学工業と韓国Seoul Semiconductor Co.,Ltd.。両社の係争に,また新たな訴訟が加わった。日亜化学工業は,同社保有の欧州特許「EP541373」を侵害するとして,Seoul Semiconductor社をイギリスにて2008年9月16日に提訴したことを明らかにした(発表資料)。日亜化学工業によれば,対象となるSeoul Semiconductor社の製品は高出力白色LEDの「Acriche」シリーズであり,Acricheシリーズに用いるLEDチップがこの欧州特許に触れると主張する。訴訟において,侵害差し止めと損害賠償を求める。

 EP541373は,p型GaN系半導体の製造方法に関する特許である。p型不純物をドープしたGaN系半導体膜を400℃以上で熱処理し,p型不純物を活性化させる技術に関連する。日亜化学工業によれば,この熱処理を加えるという特許は「GaN系LED,LD(レーザ・ダイオード)を大量生産するためには欠かせない源泉特許」という。

 p型GaN系半導体に熱処理を加えるという特許は,日亜化学工業が2000年前後に他社とGaN系青色LEDに関して係争を繰り広げていたときにも,たびたび話題になっていた。その当時,話題になったのが国内特許「第2540791号」である。「日亜化学工業が保有する特許の中でも最強」とする声も多かった。日亜化学工業によれば,今回の欧州特許(EP541373)はこの国内特許の欧州版であるという。

Acricheでは海外で争う日亜とSeoul Semiconductor社

 今回の提訴に対し,Seoul Semiconductor社はまだ正式なコメントを発していない。Seoul Semiconductor社によれば,Acricheに対しては今回の訴訟のほか,イギリスやドイツ,米国で日亜化学工業に提訴されているという。米国ではLEDチップの表面に凹凸を設けることでチップ内部の光取り出し効率を高めるという,日亜化学工業の特許(米国特許6870191)の侵害の有無が審議されている(Tech-On!関連記事1Tech-On!関連記事2)。

 Seoul Semiconductor社はこの米国特許に対し,「凹凸を設けると光取り出し効率が上がることは自明なことであり,特許に独自性がない。そもそも当社はこの特許は使っていない」(Seoul Semiconductor社の日本支社であるジャパンソウル半導体)としている。イギリスやドイツでの裁判では,高出力にするための層構造に関する欧州特許(EP0599224A1,EP0622858A2)が対象になっている。

 Acricheは主に照明器具をターゲットにしており,交流電源で直接点灯できることが特徴である。AC-DCコンバータを使う必要がない。Seoul Semiconductor社はAcricheを核に照明用光源を次なる事業の柱に育てようとしており,日亜化学工業との係争は決して後に引けないことになりそうだ。