図1 PBIなどの塩基性高分子を使う酸/塩基複合型電解質膜。リン酸などの酸をドープすることによって,酸塩基相互作用を起こして,酸が高分子鎖に固定される。固定といっても強固な結合ではなく,流動的であり,リン酸はプロトンと共に空気極に移動する
図1 PBIなどの塩基性高分子を使う酸/塩基複合型電解質膜。リン酸などの酸をドープすることによって,酸塩基相互作用を起こして,酸が高分子鎖に固定される。固定といっても強固な結合ではなく,流動的であり,リン酸はプロトンと共に空気極に移動する
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図2 PBI/H<SUB>3</SUB>PO<SUB>4</SUB>複合膜を使った燃料電池の出力密度-電流密度曲線。膜厚は90μm,リン酸濃度は,2.52mol/unit(unitは高分子の繰り返し単位)
図2 PBI/H<SUB>3</SUB>PO<SUB>4</SUB>複合膜を使った燃料電池の出力密度-電流密度曲線。膜厚は90μm,リン酸濃度は,2.52mol/unit(unitは高分子の繰り返し単位)
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図3 検討中の塩基性高分子
図3 検討中の塩基性高分子
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 上智大学理工学部の陸川政弘教授らのグループは,ポリベンゾイミダゾール(PBI)にリン酸をドープしたPBI/H3PO4複合膜を固体電解質膜として使うことにより,室温から中温域(100~200℃)の幅広い温度域で発電可能な無加湿型のPEFC(固体高分子型燃料電池)を開発した,と発表した。

 現在実用域に近いPEFCは,末端にスルホン酸などの酸基を持っており,水を介してプロトン(H)が伝導する(用語解説「イオン伝導体」参照)。これに対して,陸川氏らが検討しているPEFCのタイプは,NやNH基を持つ塩基性の高分子であるPBIにリン酸をドープした複合膜を使う。PBI鎖中の塩基とドープした酸が相互作用を起こして,PBIにリン酸が固定化される状態となる(図1)。このリン酸を介してプロトンが伝導する。

 PBI/H3PO4複合膜を使った燃料電池は,加湿が必要ないために水管理のための補機が省けることからコストダウンと小型化が可能になる。加えて,100℃~200℃という従来のPEFC(70~90℃)より高温域でイオン伝導性を示すために,発電効率が高くなり,触媒被毒が抑制できるなどメリットが多い。このため,次世代のPEFCとして,ドイツのBASF社Volkswagen社などが開発を進めている。

 これまでのPBI/H3PO4複合膜を使った燃料電池は,室温起動ができないために,補機を使って100℃以上まで加熱する必要がある。今回開発した燃料電池は室温起動が可能なため,反応熱によって次第に温度が上がり,中温域まで自己発電させることができる。

 室温(23℃)における出力密度はまだ低く,8.23mW/cm2である(図2)。160℃まで温度を上げれば,270~280mw/cm2の出力密度が得られていることを確認している。

 室温起動が可能になったのは,リン酸の吸着量を最適化したことが大きかったという。固体電解質中のリン酸は多いほどイオン伝導性が上がって発電効率が向上するが,触媒層中にリン酸が存在すると,リン酸は白金と吸着して触媒性能を劣化させ,発電効率を下げる問題がある。電解質中のリン酸は,プロトンと共に触媒層に移動する。加えて,もともと触媒層には白金までプロトンを運ぶためにリン酸が入っている。そのため,電解質中のリン酸量は多く,触媒層にはできる限りリン酸量が少なくなるように,PBIの分子構造や触媒構造に工夫を加えたとしている。

 陸川氏らの研究グループは,PBI以外にも様々な塩基性高分子を検討しており(図3),今後,リン酸の吸着量をさらに最適化し,膜の耐久性や発電特性などを高める考え。PEFCのほか,アルカリ型燃料電池やダイレクトメタノール型燃料電池(DMFC)にも適用できるとみている。10年後くらいの次世代の定置用電源,自動車用電源,携帯用電源への実用化を目指したいとしている。

 なお,本研究は,新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)のプロジェクト「固体高分子形燃料電池実用化戦略的技術開発」の委託を受けて行われたもの。成果は,2008年9月24~26日に大阪市立大学で開催される第57回高分子討論会で発表される。

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