Linus Upson氏への質疑応答は,米国本社とのビデオ・カンファレンス形式で行った。
Linus Upson氏への質疑応答は,米国本社とのビデオ・カンファレンス形式で行った。
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 米Google Inc.は2008年9月3日,国内でもWebブラウザー「Google Chrome」(Tech-On!の関連記事)の記者説明会を開催した。Google社 Engineering DirectorのLinus Upson氏がビデオ・カンファレンスを通じて国内の報道陣からの質問に答えた。ここでは主な質問とUpson氏の回答を紹介する。

---- なぜGoogle社がWebブラウザーを出すのか。「Firefox」を開発するMozilla Foundationに協力するといったやり方もあるのではないか。

 Mozilla Foundationとは,さまざまな面で長年にわたり協力してきた。しかし,「どのようなWebブラウザーが望ましいか」という点で,Google社内でいろいろなアイデアが出てきた。それをMozilla Foundationに押し付けたくはなかった。複数種類のWebブラウザーによる競争が,より良いWeb環境をもたらすという面もあるだろう。

---- HTMLのレンダリング・エンジンに「WebKit」(注:米Apple Inc.が中心となって開発した,オープンソースのレンダリング・エンジン)を採用したのはなぜか。

 理由は二つある。一つが,速いこと。Google社はいつも,速いことを重要視する。他のレンダリング・エンジンと比較したところ,WebKitが最も速かった。もう一つが,コードがシンプルなことだ。改良を加えやすいし,コード・サイズが小さいという利点もある。さらに,Androidの開発チームがWebKitを採用した経験を生かせるという理由もあった。Apple社の「Safari」と「iPhone」用Webブラウザー,「Android」のWebブラウザー,そしてChromeが共通のレンダリング・エンジンを採用するのは,Webの開発者にとっては朗報だろう。

---- JavaScriptの実行エンジン「V8」はデンマークのチームが開発したそうだが,その開発に至った経緯を教えてほしい。

 デンマークにいるGoogle社のSoftware EngineerであるLars Bak氏が開発チームを率いている。彼はGoogleへの入社前から,20年にわたって仮想マシンの開発に携わってきた経験を持つ。V8は,JavaScriptのコードを機械語に変換してから実行する,いわゆるJIT(just in time)コンパイルの機能を備えた実行エンジンである。自動車の「V8エンジン」から,「高速なエンジン」というイメージでV8と名付けた。

 V8のスピードは,今までにないものだ。JavaScriptのパフォーマンスの問題でこれまで実現できなかったような,新しいWebアプリケーションが生まれるかもしれない。

---- Chromeの名前の由来を教えてほしい。

 「chrome」という言葉は,Webブラウザーではボタンやメニューなど,ウインドウの周囲の部分のユーザー・インタフェースを意味する。Chromeという名前は,我々がユーザー・インタフェースに注力していることを象徴している。

---- Chromeをパソコン以外の機器にも展開したいと考えているか。

 Chromeは,デスクトップ用に特化している。デスクトップ向けとモバイル向けで求められているものは異なるからだ。ただし,HTMLのレンダリング・エンジンはAndroid用のWebブラウザーと共通だ。今後も,Androidの開発チームとも密接に協力しながら開発を進めていくつもりだ。

---- 今回Google社がChromeの提供を開始したことで,パソコンのOSに求められることは今後変わっていくと考えているか。

 正直なところ,そうしたことはこれまで考えていなかった。今回のChromeは,今の環境でより良いユーザー体験を実現するために用意したものだ。しかし,Webが将来のOSにどのような影響を与えるかは,今後考えていくべきことだろう。