製品開発における重要な要素として「インタラクション・デザイン」が注目されています。きっかけとなったのが,身体の動きを反映するコントローラで新しい体験を実現し,それまでのゲーム機と全く異なるユーザー層を開拓した任天堂の「Wii」,日本のケータイとは異質なカルチャーを背景に持つ「iPhone」といった革新的な製品の登場です。これにより,固定化してしまった「コンピュータ」の概念を考え直そうとする大きな流れが起き始めています。

 こうした新しいタイプの製品を開発する際には,最初にすべての設計を行ってから一気に実装するという方法は向いていません。まず実際に動くものを作り,試しながら完成度を上げていく「アジャイル・ソフトウエア開発」のような手法が有効です。ただし,効率よくプロトタイピングを行えるのは,キーボード,マウス,ディスプレイのような標準的な入出力デバイスとソフトウエアだけで完結している場合です。ハードウエアの設計が絡んでくると,「スケッチするような感覚で気軽に」というわけにはいきません。

 ハードウエアが製品の開発プロセスを固定化してしまっているのです。最初にハードウエアを設計し,それに合わせてソフトウエアを実装し,それらを収めるための「ガワ」として外装をデザインする…。この流れからなかなか抜け出せないことが多いのではないでしょうか。これでは,ソフトウエアを実装して実際に動く段階になって,ハードウエア側の問題を発見したり,ほんの少しハードウエアを変更すれば劇的に使いやすくなるアイデアを思いついたとしても,既に手遅れです。ましてや,インタラクティブな機能を作り込んだりする余地はありません。ちょっとしゃれたグラフィックスを用意するのが精いっぱいです。

 こうした状況を解決するための方法として提案されているのが,「フィジカル・コンピューティング」という考え方です。今回,レポートする「Sketching in Hardware 3」は,「ハードウエアでスケッチする」をテーマに開催されているフィジカル・コンピューティングのミーティングです。今回が第3回になります。2008年7月25日から27日にかけて,米国ロードアイランド州プロビデンスのRhode Island School of Design(RISD)で開催されました。

「コンピュータ」の概念を壊す

 フィジカル・コンピューティングは,インタラクション・デザインを教えるための方法の一つとして考案されたものです。もともとは,米New York UniversityのITP(Interactive Telecommunications Program)における授業の名前でした。最近ではデザインやアートにおける分野の名前として定着しつつあります。