こうした枠組みが用意されれば,現在のDRM技術が生きてくる局面も増えるだろう。新しいコンテンツに限っても,発売の前,直後,1年後で価値や必要な流通形態は変わる。いわゆる「ロングテール効果」を使って過去のコンテンツを売りたいときと,新しいコンテンツを売るときに,対価や制限が変わるのは当然だ。一律に制限するのではなく,その時点の価値に合わせて,制限を柔軟に変えていくならユーザーも権利者も受け入れやすい(図8)。

図8 権利者の主張だけによらないDRMを作る パソコンでのコンテンツ・ライブラリの管理や,YouTubeの視聴という体験に慣れたユーザーに利便性が後退したという印象を与えず,ユーザーのプライバシーも確保する。その上で,クリエーターや権利者に適切な対価を戻せる仕組みを安価に構築できれば,コンテンツの所有者が積極的に利用する流通基盤になり得る。
図8 権利者の主張だけによらないDRMを作る パソコンでのコンテンツ・ライブラリの管理や,YouTubeの視聴という体験に慣れたユーザーに利便性が後退したという印象を与えず,ユーザーのプライバシーも確保する。その上で,クリエーターや権利者に適切な対価を戻せる仕組みを安価に構築できれば,コンテンツの所有者が積極的に利用する流通基盤になり得る。 (画像のクリックで拡大)

 知的財産法学の大家である東京大学 法学政治学研究科・法学部 教授の中山信弘氏は,「契約や技術で担保できるなら法律は必要ない。基本的に保守的である法律は,産業間での調整がどうしてもつかなかったときに出番が来るもの。事前に法的に調整しようとするのではなく,産業界同士の議論に基づくルール作りや新しい技術によって,ユーザーに受け入れられる新しいビジネスモデルを作り上げることが最善だろう」という(連載第4回の「著作権法がどうあろうと『翻案文化』は止められません」参照)。

標準を握る競争が始まる

 とはいえ,新しいDRMへの試みはまだ始まったばかりである。十分に普及するまでの過渡期にはさまざまな問題が起こり得る。例えば,コンテンツの権利者すべてと契約を結ぶ必要があるといった問題だ。「音楽を使ったコンテンツをYouTubeで流す場合,Google社の収入の一部をJASRACにも払ってもらうことになる。すべてのコンテンツ提供者がGoogle社と契約するようになれば,包括契約を前提とする我々も商用利用を含めた契約を結べる。しかしそれは簡単ではない」(JASRAC 送信部 部長の小島芳夫氏)。こうした構図を考慮すると,多くのメディア企業との契約を勝ち取り,ほとんどの権利者が安心して利用できる仕組みを構築できた動画共有サイトに,最終的にはコンテンツもユーザーも集中するだろう。