角川グループは,自社のコンテンツが投稿されたことについてGoogle社から報告を受け,広告などを付与して掲載を継続するか,削除するかを選択する。掲載を継続する場合,掲載されたコンテンツを購入できるWebサイトや自社の公式サイトなどにリンクを張ったり,広告を付与したりする。福田氏は提携に至った理由として,「Google社がコンテンツの価値を認め,クリエーターに利益を還元する枠組みを用意してくれるというなら,話を聞き,協力すべきだと思った。識別精度は100%ではないが,それは最初から求めていない。運用を通じて上げていけばよい」(福田氏)と説明する。

 Google社はYouTubeの動画に対して,より効果的な広告を提供するために,「AdSense for video」を用意した。動画表示ウインドウ内にオーバーレイ表示する広告であり,2008年2月21日から公開ベータ版の運用を米国内で始めている。2007年5月から一部の企業やユーザーとテストを重ねていた。動画表示ウインドウの下部およそ1/5の領域に,透過性を持った広告を重ねて表示する。動きのある画像や文字で構成した広告を表示する形式と,文字だけで構成した広告を表示する形式がある注10)

注10) 前者は,ユーザーが広告領域をクリックすると映像の再生が一時停止し,広告映像の再生が始まる。その広告映像をクリックするとリンク先のWebサイトを表示するし,広告映像の再生が終わったら一時停止していた映像の再生を再開する。

 Google社は,これらの広告で得た収入をコンテンツの提供者に分配する。ただし現時点では,投稿した動画が1カ月に100万回以上再生される提供者に限定する。契約した提供者が投稿したコンテンツにこれらの広告を表示し,広告が表示された回数やクリックされた回数などに応じて収入を分配する。

ユーザー主体の流通が許せる

 角川グループとGoogle社の提携で注目すべき点はもう一つある。広告を付加して提供する対象として,角川グループが提供した公式の動画だけでなく,ユーザーが投稿した動画も含めるのである。ユーザーによるアップロードを肯定的にとらえた。「『不正な投稿の100%削除が達成できていない』といって文句を言うのは簡単。僕たちのコンテンツに愛を感じてくれたファンだからこその行動の場合もある。ファン抜きのエンターテインメントは成り立たない。愛を持ったファンの行動を生かしたい」(角川デジックスの福田氏)。

 「YouTube後」の新しいDRMはこのように,コンテンツのコピーや編集,サーバーへの投稿をユーザーに許可することになるだろう。コンテンツの面白い部分を抽出したり,新たなコンテンツを生み出したりといったユーザーの力を借りる。ユーザー主体の流通を容認しつつ,コンテンツの利用状況に応じて収益化できる仕組みを用意しておく(図7注11)

図7 ユーザー主体の流通には新たな著作権管理が必要 YouTubeやニコニコ動画などの動画共有サイトは,コンテンツに対するユーザーの編集やコメント追加などが新たな魅力を生み出したことで成長してきた。こうしたWebサイトを生かすためには,コンテンツのコピーや編集,投稿を許可しなければならない。なるべくコピーさせないことを志向してきた従来型のコンテンツ流通に向けたDRM技術では対応できない。著作権管理の仕組みを新たな発想で構築する必要がある。
図7 ユーザー主体の流通には新たな著作権管理が必要 YouTubeやニコニコ動画などの動画共有サイトは,コンテンツに対するユーザーの編集やコメント追加などが新たな魅力を生み出したことで成長してきた。こうしたWebサイトを生かすためには,コンテンツのコピーや編集,投稿を許可しなければならない。なるべくコピーさせないことを志向してきた従来型のコンテンツ流通に向けたDRM技術では対応できない。著作権管理の仕組みを新たな発想で構築する必要がある。 (画像のクリックで拡大)
注11) コンテンツの流通を収益化するための重要な道具の一つが広告である。ただし,広告収入だけではコンテンツ産業全体は賄えない。例えば2006年の市場規模は,コンテンツ産業全体が約14兆円(「デジタルコンテンツ白書 2007」より)だったのに対し,広告市場は約6兆円(「日本の広告費2006」(電通)より)と,半分以下である。GDP比でいえば,コンテンツ産業は2.76%,広告市場が1.18%だった。米国はコンテンツ産業のGDP比が日本より高い約4%だが,広告市場のGDP比は日本とあまり変わらないとされている。