伸びる配線を格子状に配線したシート
伸びる配線を格子状に配線したシート
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シートの拡大写真。有機トランジスタのX,Yの配線が今回の伸びる配線になっている。
シートの拡大写真。有機トランジスタのX,Yの配線が今回の伸びる配線になっている。
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38%まで伸ばしても導電率に変化なし(赤線)。導電率は,従来の導電性ゴムより約3ケタ高い。ただし,金属よりは4ケタ小さい。
38%まで伸ばしても導電率に変化なし(赤線)。導電率は,従来の導電性ゴムより約3ケタ高い。ただし,金属よりは4ケタ小さい。
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イオン性液体
イオン性液体
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 東京大学 工学系研究科 准教授の染谷隆夫氏の研究グループは,「伸び縮み可能でしかも導電性が高い新物質を世界で初めて開発した」と発表した。これにより,有機トランジスタを用いた大面積の電子回路を自由曲面に張ることが可能になり,有機トランジスタの用途が大きく広がるとする。しかも,「伸縮性を持つことで,曲げることへの機械的な耐性が大きく向上する」(染谷氏)という。論文は米Science誌の2008年8月7日付け速報版「Science Express」に掲載された。

 この物質は,単層カーボン・ナノチューブ(SWNT),イオン性液体,弾性のある樹脂などから成る物質で黒いゴム状をしている。導電率は57S/cmで,市販の導電性ゴムの0.1S/cmに比べてはるかに高い。しかも,この導電率を保ったまま1.38倍の長さまで伸ばすことができる。この物質をメッシュ状に配線した場合は,メッシュが変形する効果も加わり最大2.34倍まで伸ばすことができるという。従来にもカーボン・ナノチューブを樹脂に混ぜることで導電性ゴムを作製した例はあるものの,導電率は10S/cm,伸ばしても1.1倍止まりだったという。

 東京大学の染谷氏は今回の最大のポイントを,「イオン性液体と,それに溶ける上に弾性を備えた樹脂の組み合わせが,世界で初めて見つかったこと」とする。具体的には,イオン性液体に「BMITFSI(1-butyl-3-methylimidazolium bis(trifluoromethanesulfonyl)imide)」,弾性樹脂にはフッ素系樹脂の一種「Daiel-G801」を用いる。

 一般にイオン性液体は,SWNTを凝集させずに溶かすことができる材料として知られている。このイオン性液体に樹脂を溶かすことができれば,SWNTを樹脂中に均一に分散させることができ,高い導電性が得られることが予測できる。ところが,これまで弾性のある樹脂でイオン性液体に溶けるものは今まで見つかっていなかった。

 もう一つのポイントは,1本で2~4mmと非常に長いSWNTを用いた点。SWNTの直径は3nmと細い。仮にこのSWNTを直径0.3mmのミシン糸に例えると,200~400mの長さになる。「SWNTが長いことが導電性や伸張性の高さに重要な役割を果たしている可能性が高い。伸ばしても導電性が変わらないのは,SWNTがスパゲッティのように絡み合ってそのまま伸びているからと考えられる」(染谷氏)。

 染谷氏のグループは2005年に,配線をメッシュ状に設計して自由曲面に張れる「電子人工皮膚」を開発したことがある(関連記事)。当時の技術の伸張性は1.25倍だった。今回との最大の違いは,従来はメッシュ構造が変形することで伸びていたのに対し,今回は配線自体が伸びることである。「伸縮性がないものはたとえ曲げられても,尖ったものが当たったりするとそこから壊れる恐れがつきまとう。フレキシブルなデバイスにとって伸縮性は非常に重要」(染谷氏)という。

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