経済産業省は,デジタルコンテンツの再生装置に対してコピー制御ルールを順守させる手段である「エンフォースメント」や,私的録音・録画補償金制度の見直しに関する議論を開始する計画だ。業界関係者によると,有識者や法律関係者が参加する「コンテンツ取引と法制度のあり方に関する研究会」(仮称)を2008年8月下旬に立ち上げる。コンテンツの制作(クリエートの現場を含む)から,コンテンツの流通,再生装置の製造・流通まで幅広くコンテンツ産業をとらえ,その関連産業の振興という視点で総合的な検討を行う。

 デジタルコンテンツの流通形態はいま,記録媒体やネットワークの多様化,大容量化の進展およびその普及に伴って,様変わりしようとしている。関連する産業も通信・放送だけではなく,コンテンツ業界,流通業界,IT業界(配信技術やDRM技術の開発を含む),再生装置のハード・ソフトメーカーなど幅広い。いずれも,今後大きく成長が見込まれる分野であり,かつ国際競争力の強化に向けて,環境整備も必要な分野である。

 ところが,これまでこうした分野で経産省の影は薄かった。「経産省はコンテンツに関する議論をすることをさぼっていた」(経産省の事情に詳しい関係者)ともいえる状況だった。今回の研究会の立ち上げは,コンテンツ流通に関連する様々な分野を包含した制度設計の在り方を様々な産業を振興していくという立場から切り込むことで,このテーマをめぐる議論において主導権を握ろうというものと位置付けられるだろう。

 研究会はコンテンツの保護と利用のバランスを考慮しつつ,コンテンツ産業の市場実態や,デジタル機器やインターネットなどコンテンツ産業にかかわる技術の進歩,コンテンツ産業関連の法制度などについて議論する。想定する主な論点は,(1)デジタルネット時代における競争的なコンテンツ取引環境,(2)DRM技術によるエンフォースメントの在り方,(3)私的複製の在り方──である。

 このうちエンフォースメントについては例外なく幅広く扱う方針であり,現行のBS・地上デジタル放送で利用されている「B-CAS」の見直しについても,議論の俎上(そじょう)に載る見通しである。私的複製については,補償金制度の見直しもテーマになることが想定されている。これらの課題では,規制強化ありきではなく,民間事業者の協議による解決などを含めた議論が行われる見通しである。こうした議論を展開するうえで関連法規としては,著作権法や不正競争防止法などが議論されることになりそうだ。