液晶材料の進化が後押し (NIKKEI MICRODEVICES 2007年6月号より)

 DSMから高性能のTNモードへの移行とともに重要課題だったのが,液晶材料の信頼性改善するための開発である。

 シャープはDSMを電卓に応用していたが,このDSM用の液晶材料であるシッフ・ベイセスは加水分解しやすく,すぐに動作しなくなった。これを解決するためには,シールを頑丈にしなければならず,使いにくかった。加えて,使われたシッフ・ベイセス混合液は氷点下の低温では動作しないため,民生機器用としては不向きだった。

 また,服部精工舎が腕時計に使ったTNモード用のアゾキシ液晶材料も,信頼性に課題があった。アゾキシ液晶は黄色く色付いており,光を受けるとそのスペクトラムのエネルギーを吸収し液晶材料が壊れてしまうのである。これを防ぐためには,光学フィルタを使う必要があった。

 長期的な信頼性を確保し,本格的な応用展開を可能にする液晶材料を最初に開発したのは,英国の研究チームだった17)。その英国で液晶材料の開発が始まったキッカケは,英国科学技術省の大臣John Stonehouse氏の言葉だった。1967年のある日,同氏は空軍研究所(Royal Radar Establishment:RRE)を訪れた。研究所長は「英国がRCAに支払っているCRTの特許料は,フランスと共同開発したコンコルドの開発費より高くついている」ことを指摘した。翌日Stonehouse氏は所長を電話で呼び出し,「英国は固体素子の薄型ディスプレイを開発するべきだ」と要請した。所長が部長たちにそのことを相談すると,物理グループ部長は真っ青になり,ディスプレイ部長のCyril Hilsum氏は「とんでもない」という反応だった。結局,そのようなときの常套手段だが,専門委員会を開いて解決を図ることになった。

17)Hilsum, C.,“The anatomy of a discovery-biphenyl liquid crystals,” Technology of Chemical and Materials for Electronics, E. H.Howells, Ed., Chichester, U.K.: Ellis Horwood, 1984, pt.1, ch.3, pp.43-58.