現在の液晶ディスプレイの原型「NTモード」の誕生 (NIKKEI MICRODEVICES 2007年6月号より)

 DSMを使った液晶応用製品はシャープの液晶電卓しかなく,その後の製品にはTNモードが使われた。現在は,このTNモードから派生したSTN,IPS(in-plane switching),MVA(multi-domain vertical alignment)といったモードが広く使われている。TNモードは,電界で液晶分子を動かして光をオン/オフする。TNモードの液晶パネルは,コントラストが高く,動作電圧が低い。ゲスト・ホスト・モードに見られる色付きもなく,あらゆる面で優れた特性を持つ。

TNモードの開発に携わった人々


図5●TNモードの発明者
Wolfgang Helfrich氏とMartin Schadt氏のグループと,James Fergason氏との間では壮絶な特許上の権利争いが起きた。写真はいずれも本人が提供。

 このTNモードを考案したのがWolfgang Helfrich氏である(図5)。同氏は1966年にドイツから米国に渡り,Heilmeier氏のグループに入るため,RCA研究所員になった。Helfrich氏によると,同氏は1969年にTNモードを考案し,そのアイデアをHeilmeier氏の前で説明している。しかし,Heilmeier氏は光利用効率が低いことを理由に,2枚の偏光板を必要とするTNモードの提案を受け入れなかったという。

 やがて,「RCAは液晶ディスプレイを事業化しない」ということが明らかになり,多くの液晶研究者が次々にRCAを辞めていった。Helfrich氏もスイスHoffmann-La Roche社の研究者Martin Schadt氏の誘いを受け,1970年10月の初めに同社に移った(図5)。

 二人は早速TNモードのアイデアを実行に移し,わずか数週間で基本的な実験に成功した。1970年12月4日には特許10)を申請し,1971年2月には「Applied PhysicsLetters」に論文を発表している11)。この論文は,現在の液晶産業の基礎となった最も重要な論文といっても過言ではない。

10)Helfrich, W. and Schadt,M.,“Optical device,”Swiss Patent 532261, filed Dec.4, 1970, issued Feb.15, 1972.
11)Schadt, M. and Helfrich, W.,“Voltage-dependent opticalactivity of a twisted nematic liquid crystal,”Appl. Phys. Lett., vol.18, no.4, pp.127-128, Feb. 1971.

壮絶な特許の争い