Celeron登場で流れに乱れ

 ここで時系列がちょっとおかしなことになる。Intel社はDechutesコアからL2キャッシュを抜いた低価格品を,「Celeron」というブランドで1998年6月から発売した。ところが予想以上に性能が低く,マーケットでの売れ行きも悪かった。そこでDixonコアをMobile向けに先立ってCeleronに投入した。「Mendocino」と呼ばれたこのコアはDixonのL2キャッシュ(256KB)を半分殺す形で投入されたが,これがヒットする。Mobile向けにもこのMendocinoは投入された。こちらはBGAやμPGAパッケージで供給されたため,組み込み用途向けにはPentiumIIなどよりはるかに適していた。ここでようやく組み込み向けシステムのCPUは,MMX PentiumやMobile PentiumからMobile PentiumIIやMobile Celeronへとシフトを始めることになった。


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 これに引き続き,1999年にはSSE(Streaming SIMD Extention)を搭載した「Katmaiコア」の製品がPentiumIIIとして登場する。当初はDeschutes同様の0.25μmプロセス(なので,L2キャッシュは外付け)を採用しており,Slot1対応だったが,同年10月にはプロセスを0.18μmに微細化し,L2キャッシュを内蔵した「Coppermineコア」が登場する。当初こそ互換性を保つためにSlot1対応の製品が投入されたが,多くは370ピン PGAパッケージに移行し,これでやっと組み込み用途向けにも展開しやすいパッケージとなった。翌年にはL2キャッシュを減らした「Coppermine-128Kコア」のCeleronも投入され,こちらも組み込み用途に多用されるようになる。

 もう一つ特筆すべきはMobile向け。デスクトップ同様,1999年10月にはMobile PentiumIIIが発売されるが,2001年に急遽低電圧版(LV:Low Voltage)と超低電圧版(ULV:Ultra Low Voltage)Mobile PentiumIIIが投入された。これは当時としては驚異的に消費電力が小さいことから話題となった米Transmeta Corp.のプロセッサ「Crusor」に対抗するためだった。低電圧/超低電圧動作する製品は選別する形でラインナップされた。この低電圧版/超低電圧版は,組み込み用途のユーザーの目に止まる。さらにULV Mobile Celeronまでラインナップされと,「低価格かつ低消費電力」として一段と組み込み用途の市場で人気を集めるようになる。「Intelの組み込み向けプロセッサ≒IntelのMobile向けプロセッサ」の図式が見え始めたのは,このLV/ULV Mobile PentiumIIIの投入時期にほぼ合致している。

 これに引き続きIntel社は,0.13μmプロセスを使った「Tualatin」を投入し始める。ただIntel社はこの時期,「Pentium 4」の投入を前倒しで始めている。理由は,AMDのAthlonプロセッサに性能で競り負けた(1GHz動作製品の投入が数日の差で遅れを取り,しかも続いて投入した1.13GHz動作品を回収する騒ぎを起こした)ためで,結果としてメインストリーム向けの「PentiumIII-S」は市場に多く出回る前に姿を消すことになった。ただMobile向けにはTualatinベースの「Mobile PentiumIII-M」や,そのLV/ULV版が長く利用された。また,Celeronについても比較的長くTualatin-256Kベースのものが採用されている。またサーバー用途として最大1.4GHz駆動のPentiumIII-Sも若干ながら市場に出回った。これに続くPentium4の時代は組み込み用途には厳しいもので,結果としてこのPentiumIIIをベースとしたシステムはほんの数年前まで販売され続けるという,きわめて息の長い商品になった。