ここで「長く勤めている」という条件が付くのは,Hon Hai社の退社率が台湾企業としてもやや高いため。「当たり前の戦略を誰よりも速く,徹底的に実行することで勝ってきた会社だけに,付いていけない人は少なくない」(Hon Hai社の元従業員)注17)

注17) もっとも,最近ではHon Hai社のGou氏が「長期休暇には家族と過ごすように幹部に通達するなど,少し雰囲気が変わってきた」(同社で技術指導に当たる日本人)という。

 実は,これまで成長の一翼を担ってきた株式ボーナス制度は,早ければ2007年にも見直される見込みだ。これまで不要だった株式ボーナスの発行費の計上を義務付ける意向を,台湾の行政当局が示しているからだ。このため「これまでのような手厚い株式ボーナスは支給できなくなるかもしれない」(大和総研の杉下氏)。当のHon Hai社は,「Gou氏が自己の持ち株を若い従業員に譲渡するなどして,影響を最小限にとどめる方針」(同社 CCPBG Executive VP & General ManagerのJ. E. Tai氏)である。

「軍隊」並みの規律

 Hon Hai社の企業風土を表すもう一つの言葉である軍隊並みの規律を象徴するエピソードは,同社の従業員や取引先など,至る所から聞けた。例えば「Hon Hai社で働く作業員の寮を見学したとき,台湾軍式にキチッとシーツを畳んでいた。兵役がある台湾では当然かもしれないが」(大和総研の杉下氏)という証言がある。

 Hon Hai社が規律を重視する最大の理由は,業務効率の向上にある。同社は,無駄なコストや時間を徹底的に排除するよう努めている。例えば,低層棟の場合エレベーターは特別な事情がない限り使わない,幹部にも質素な机や部屋しか与えない,CEOのGou氏に呼び出されたら世界のどこにいても48時間以内に駆け付ける,といったルールが運用されている。