安く部品を買う

 コスト削減に向けた厳しい姿勢は,社内だけでなく社外にも徹底している。矢面に立たされるのは部品メーカーである。「あるときに『明日から部品の価格を2割下げろ』といきなり電話が来た。数量が増えるなどの理由もなく,とにかく値段を下げろというばかり」と,部品メーカーからは怨嗟えんさの声が漏れる。

 ひとたびHon Hai社が部品の選定権を握ると,価格低下の圧力は類を見ないほど厳しい。ただでさえ台湾のEMS企業は「部品価格に台湾企業向けと日本企業向けの2種類があるのかといわれるほど,部品を安く仕入れる」(ある証券アナリスト)。その中でも,Hon Hai社の圧力は突出しているという。「まずガバッと大量の製造委託を安値で受注して,それから各担当者が原価を必死に下げる。原価低減に失敗すれば担当者は報酬を大幅に減らされる」(Hon Hai社と取引する販売担当者)。

 部品メーカーの不満の声に対して,Foxconn International社のDai氏は「指定した仕様と品質を満たしつつ,最も価格が安い部品メーカーを選ぶ。脱落する部品メーカーが出るのはやむを得ない」と言う。

在庫リスクを負わない

 外部調達した部品の在庫管理にはVMI(vendor managed inventory)方式を採る。VMIとは,部品メーカー自らが部品在庫を管理する責任を負う手法のこと。機器メーカーが自社の倉庫から部品を引き出した時点で,部品メーカー側の売り上げが発生する。つまり,Hon Hai社が抱える部品在庫は会計上,常にゼロとなる。部品メーカーにとって極めて不利な条件の取引といえる。

 Hon Hai社に限らず,VMIはこの4~5年のうちに台湾系EMS企業が相次いで導入している。VMIとは本来,製造業者が機器の生産計画を部品メーカーと共有することが前提であり,これにより部品メーカーも生産計画を立てやすくなる利点がある。だが実際には「まともに情報を提供してくれるEMS企業はほとんどない」(香港の部品流通業者)のが現状だ。

 中でもHon Hai社は,自社工場内で通関できる特権を生かし,海外から部品を納入するメーカーに対してもVMIを適用している(図9)。仮に在庫が不要になれば,海外メーカーが国境を越えてHon Hai社の倉庫まで運んだ在庫を,すべて引き取らねばならない。

図9 組み立て工場内で通関審査が完結  Hon Hai社の深セン工場では,組み立て工場内で部品や製品の通関審査を済ませることができる。その利点は二つある。一つは,組み立てた製品が通関手続きによって滞留することがなくなり,リードタイムの短縮につながること。もう一つは,特に海外から部品を調達する際に,部品の在庫リスクを軽減できることだ。工場から離れた場所で通関審査を行う場合には,工場の直近に倉庫を設けて自ら部材の在庫量を管理する必要がある。Hon Hai社の場合は部品の通関審査が組み立て工場の入り口でできるため,倉庫にある在庫を部品業者に管理させることができ,自らは在庫リスクを負わずに済む。
図9 組み立て工場内で通関審査が完結  Hon Hai社の深セン工場では,組み立て工場内で部品や製品の通関審査を済ませることができる。その利点は二つある。一つは,組み立てた製品が通関手続きによって滞留することがなくなり,リードタイムの短縮につながること。もう一つは,特に海外から部品を調達する際に,部品の在庫リスクを軽減できることだ。工場から離れた場所で通関審査を行う場合には,工場の直近に倉庫を設けて自ら部材の在庫量を管理する必要がある。Hon Hai社の場合は部品の通関審査が組み立て工場の入り口でできるため,倉庫にある在庫を部品業者に管理させることができ,自らは在庫リスクを負わずに済む。 (画像のクリックで拡大)