前回に引き続き,Hon Hai社の強さの秘訣を掘り下げる。今回は,同社の中核技術といえる金型の設計・製造に注目する。膨大な設備や人員を駆使して,他社と比べて極めて短い納期で金型を完成できる。(以下の本文は,日経エレクトロニクス,2006年7月31日号,pp.105-107から転載しました。メーカー名,肩書,企業名などは当時のものです)

(3)金型
人・設備・ITが超短納期を実現

 Hon Hai社は,自他共に認める世界トップ・レベルの金型の設計・製造部門を持つ。ASUSTeK社やFlextronics社といった他のEMS企業は,ここまで巨大な金型部門を持ち合わせていない。この金型部門をきっかけに,多くの顧客がHon Hai社に引き寄せられた。

 金型は,新商品を開発する上で極めて厄介な存在だ。例えば,Mg筐体向け金型の場合,強度を高めるための熱処理に1週間を要するといった具合に,製造に時間がかかるため開発スケジュールのボトルネックになりやすい(図6注7)。逆に,金型の設計と製造に要する時間を短縮できれば,市場の需要に即して素早く,大量に新商品を投入できる。

注7) ある大手携帯電話機メーカーは「Mg筐体を1000台造れるくらいの耐久性で構わないから,熱処理工程を削って早く金型を造ってくれ」と要求したという。いかに早く最終商品を市場に投入するか,顧客の強いこだわりが垣間見える。
図6 高速な金型設計・製造がリードタイムを削減 通常,EMS企業を使ってデジタル・カメラを設計し量産出荷にこぎつけるには,一般に短くても2カ月を要する。筐体用の金型の準備に1カ月と最も長い時間がかかるからだ。これに対しHon Hai社は,自社の大規模な金型工場で10日もあれば用意してしまう。この場合はソフトウエア開発が新たなボトルネックになるが,それでも設計から量産出荷までに要する期間を計算上,1.5カ月に縮められる。
図6 高速な金型設計・製造がリードタイムを削減 通常,EMS企業を使ってデジタル・カメラを設計し量産出荷にこぎつけるには,一般に短くても2カ月を要する。筐体用の金型の準備に1カ月と最も長い時間がかかるからだ。これに対しHon Hai社は,自社の大規模な金型工場で10日もあれば用意してしまう。この場合はソフトウエア開発が新たなボトルネックになるが,それでも設計から量産出荷までに要する期間を計算上,1.5カ月に縮められる。 (画像のクリックで拡大)