こうした巨大な製造能力は,量産効果による大幅なコスト低減に寄与する。そして何より,ヒット商品の受託をどんどん呼び込む。「売り時を逃す心配をせずに製造を任せられる」(ソニー関連企業の元幹部)からだ。

 Hon Hai社はGou氏が先頭に立って,家庭用ゲーム機から携帯型音楽プレーヤーまで,大口注文が見込めるならばどんどん手掛け,ほかのEMS企業以上に貪欲に受注を獲得した。「パソコンにこだわった台湾Quanta Computer Inc.や台湾ASUSTeK Computer Inc.,携帯電話機に重点を置いたシンガポールFlextronics Corp.とは対照的だ」(みずほ証券 エクイティ調査部 電子部品担当シニアアナリストの大森栄作氏)。製造品目を増やせば社内のリソースが分散するが,13億人の人口を抱える中国という地の利を生かして人材を大量に補充できた。

 時には,自らリスクを負って顧客が発注する前に建屋を用意した。「『あなたのために建屋を造りました』と言われて発注者がいい気分にならないわけがない」(Hon Hai社と取引がある部品メーカーの営業担当者)。

自動車のノウハウを取り入れる

 世界中の優良顧客との取引を通じてHon Hai社は,製造ラインを構築するノウハウも着実に身に付けている。「プレイステーション 2(PS2)の場合は,ソニー・コンピュータエンタテインメントがグループ企業に依頼して当初日本で製造ラインを立ち上げたが,PS3は最初からHon Hai社が造るようだ。技術力が高まっている証拠」(機器メーカーの販売担当者)。

 Hon Hai社はライン構築力を高めるため,ソニーなど民生機器メーカーの技術者に加え,デンソー,アイシン精機など自動車業界に在籍した技術者をスカウトしている。例えば,Hon Haiグループの携帯電話機事業を統括する香港Foxconn International Holdings Ltd.(富士康国際)COOのBen F. S. Dai(戴豊樹)氏は,東京大学大学院を修了後,アイシン精機でトヨタ生産方式を骨の髄までたたき込まれた人物である。パソコンの量産ラインの構築を任された同氏は,自動車部品の生産で培った手法を応用してコストの低減と生産能力の向上を達成,「顧客から世界一のラインと絶賛された」(Dai氏)注1)

注1)具体的には,組み立ての各工程のリード・タイムを射出成形やプレス成形に合わせることで,筐体の成形工程と組み立て工程を一つのラインに直結した。その上で,一つの工程で不具合が発生した際に成形から組み立てまでのライン全体を止める,いわゆるアンドン方式を取り入れた。生産能力は1日当たり4万台に達したという。

 表面実装技術についても,Hon Hai社は日本の民生機器メーカーに引けを取らない。ソニーや日立ハイテクノロジーズなどから最先端の表面実装機を買い入れ,これを使いこなすことでノウハウを蓄積した。ある表面実装機メーカーは「100万枚もの基板に,常に一定の品質で表面実装できる技術はすごい」と,Hon Hai社の実力に太鼓判を押す注2)

注2) Hon Hai社全体で表面実装機を数百~1000台ほどそろえ,1年に2~3割ほどのペースで最新の装置に入れ替えるという。