前回までは,Hon Hai社の強さの根幹や,日本企業との関係について解説した。今回からは3回にわたって,同社が「速い」「安い」「うまい」サービスを提供できる秘訣を,五つの観点から掘り下げる。まずは,事業規模と事業領域を取り上げる。(以下の本文は,日経エレクトロニクス,2006年7月31日号,pp.101-105から転載しました。メーカー名,肩書,企業名などは当時のものです)

 なぜ,Hon Hai社がほかのEMS企業を上回る「速い」「安い」「うまい」を実現できるのか――。その秘密を以下の五つの観点から分析する。

 (1)「年率30%の成長」を標榜する同社 CEOのTerry Gou氏の指揮の下,積極的に事業規模を拡大したこと,(2)事業分野を増やすことで,莫大に消費する部品や材料をグループ企業から調達していること,(3)金型の設計・製造能力を世界トップ・レベルまで高める仕組みを構築したこと,(4)生産規模を背景に部品メーカーや中国政府の協力を得て,短納期かつ低コストなサプライ・チェーンを構築したこと,(5)信賞必罰に基づく人事制度で従業員の力を引き出したこと,である。

 このうち(1)と(2),(4)と(5)は「安い」に,(2)~(5)は「速い」に,(2)と(3),(5)は「うまい」にそれぞれかかわっている。以下,(1)~(5)の詳細を順に見ていく。

(1)事業規模
20万人の労働力でヒット商品を呼び込む

 70を超える建屋が並び立ち,10万人近くの従業員が働く最大の生産拠点であるHon Hai社の深セン龍華工場。1996年の操業開始から数えると,1~2カ月に1棟の割合で建屋を追加した計算になる。Hon Hai社の工場はこのほか昆山,杭州などにあるほか,米国や英国,チェコなどにも展開している(図1)。これらの生産拠点で働くHon Haiグループ従業員は,少なくとも20万人に達する。

図1 中国を中心に全世界に生産拠点を整備  Hon Hai社は中国深センの巨大な工場を筆頭に,世界各地に生産拠点を持つ。現在,インドのChennaiに新工場を建設しているほか,ブラジルの2拠点や中国の煙台で製造設備を増強している。Chennaiでは2006年夏に携帯電話機の生産を始める予定である。煙台は日本や韓国に近い。その地の利を生かし,ここを両国の顧客を取り込むための拠点としたい考えだ。図は,Hon Hai社の資料を基に本誌が作成したもの。Hon Hai社によれば,現在では,表面実装ラインを全世界で400本,射出成形機を5000台を保有しているが,今後さらに規模を拡大させるという。
図1 中国を中心に全世界に生産拠点を整備  Hon Hai社は中国深センの巨大な工場を筆頭に,世界各地に生産拠点を持つ。現在,インドのChennaiに新工場を建設しているほか,ブラジルの2拠点や中国の煙台で製造設備を増強している。Chennaiでは2006年夏に携帯電話機の生産を始める予定である。煙台は日本や韓国に近い。その地の利を生かし,ここを両国の顧客を取り込むための拠点としたい考えだ。図は,Hon Hai社の資料を基に本誌が作成したもの。Hon Hai社によれば,現在では,表面実装ラインを全世界で400本,射出成形機を5000台を保有しているが,今後さらに規模を拡大させるという。 (画像のクリックで拡大)