原点に戻る

 商品企画という観点で日本の民生機器メーカーは,ソニーの「ウォークマン」などの例外を除けば,これまで世界市場に大きな影響を与えられていない。EMS企業が手掛けきれない先端的な研究でも,総合電機メーカーの本社研究部門に限れば「過去10年間,十分な機能を果たしたとは言いにくい」(フィノウェイブ インベストメンツ 取締役 COOの若林秀樹氏)7)

 こうした過去を打破する手掛かりは,例えばこのところ波に乗るApple社にありそうだ。同社は「iPod」や「iTunes Music Store(iTMS)」を企画するときに,いつでもどこでも好きな音楽を聞ける「体験」を提供するという目標をまず固め,その阻害要因である筐体の大きさや楽曲の著作権といった問題を解決していった。どういう機能を付加すれば,どれだけ高く売れるか,という発想に立脚した商品企画とは根本が異なる8)

表1 Samsung社の後塵を拝すブランド力 Businessweek誌の調査によると,民生機器やメディア関連の企業でブランド力が50位以内に入る日本企業は,ソニーとキヤノン,任天堂しかない。
表1 Samsung社の後塵を拝すブランド力 Businessweek誌の調査によると,民生機器やメディア関連の企業でブランド力が50位以内に入る日本企業は,ソニーとキヤノン,任天堂しかない。 (画像のクリックで拡大)

 こうした,原点に立ち返った発想と行動に基づく商品企画や研究こそがヒット商品を生み出し,事業規模を拡大させ,Hon Hai社のような巨大EMS企業の活用を可能にするカギになりそうだ。巨大EMS企業を使えるようになれば,それによる原価低減がさらなる販売台数の増加や,利幅向上による開発投資の増大を呼び寄せる。

 日本の民生機器メーカーが注力すべき最終商品の販売でも,こうしたサイクルを回すことが根本的な解決になる。現状で日本の民生機器メーカーの中で世界に通用する高いブランド力を有する企業はまだ,ソニーやキヤノン,任天堂くらいしかない(表1)。

参考文献
7) 若林,「デジタル家電バブルの崩壊で総合電機は体制解体へ」,『日経エレクトロニクス』,2006年1月16日号,no.917,pp.105-114.
参考文献
8) 今井,「iPodとiTMS,汎ネット時代を迎えたデジタル家電の行く先」,『日経エレクトロニクス 創刊35周年 特別編集版 電子産業35年の軌跡』,pp.186-187,2006年7月.