Premier社が持つ画質調整や筐体加工の技術に対する評価はEMS企業としては群を抜いて高い。一般に海外企業には難度が高いとされるガラス・モールド・レンズも製造できる。Gou氏は買収により「キヤノンのようなカメラの一貫した開発能力を手中に収められた」と自信を見せる注9)。
注9) Hon Hai社は,自社の株価が順調に伸びていることを背景に,株式交換で2006年12月にPremier社を吸収する。Premier社の2005年度における売上高は1249億円,営業利益は83億円。携帯電話機用カメラ・モジュールでHon Haiグループは,台湾Altus Technology(揚信科技)社とChengUei社を保有していた。ただし,両社ともガラス・モールド・レンズを手掛けていなかったため,Premier社を手に入れることで,商品ラインアップがひと通りそろう。なおAltus社もCheng Uei社もHon Hai社の連結決算に組み込まれていない。
市場の成長が著しい液晶テレビの製造に乗りだす可能性も高い。「液晶テレビとデスクトップ・パソコンや液晶モニターは,価格の動きや運搬方法などが似通っている。我々が構築した高速なサプライ・チェーンを転用できる」(Gou氏)。Hon Hai社は液晶パネルや液晶モジュールを製造する台湾Innolux Display Corp.(群創光電)も傘下に抱えている注10)。
注10)米DisplaySearch社によると,Innolux社の液晶モニター向け品種の世界シェアは,2006年第1四半期時点で3.8%。同社は,第5世代のガラス基板を月6万枚投入できるラインを保有している。「2005年末までInnolux社は中国に大規模なラインを建設する計画を持っていたが,今はパネルの低価格化を受けて慎重。液晶モニタの組み立てなどに注力している」(DisplaySearch社のDavid Hsieh氏)。このため,Hon Hai社が液晶テレビ事業を始めるときはパネルを他社から調達する可能性が高い。
迫られる決断
Hon Hai社のもくろみは外れる可能性もある。ただし,たとえ同社が不調に陥ったとしても,時代の要請に応える新たな巨大EMS企業が出現するだろう。世界市場に向けた民生機器を手掛ける日本メーカーの多くにとっての課題は,巨大EMS企業を「利用するかしないか」ではなく,「どのように利用するか」である。
世界シェア低下に悩む多くの日本の民生機器メーカーが,巨大EMS企業と欧米などのライバル企業が組むことを許容すれば,ますます苦しくなる。ライバルは機器メーカーに限らない。今後は,有力なブランドやコンテンツを有する企業が巨大EMS企業と手を結び,日本メーカーと対峙する事態も増えるだろう(図5)。