この金型技術が新商品を素早く,大量に投入し大きなシェアをもぎ取る武器となる。「多品種大量体制を顧客に提供するカギ」(Hon Hai社 Chairman &CEOのTerry T. M. Gou氏)。同社は創業当初から金型を手掛けてきた。「プリント基板への実装技術に大きく依存するほかのEMS企業とは異なる」(Gou氏)という矜恃きょうじがある。

 実際,Hon Hai社の金型技術は,日本企業の間でも評判となっている。「膨大なデータベースを用意して設計期間を短縮しているのはHon Hai社と当社くらいのもの。他社には容易にまねできない強み」(インクス CEOの山田眞次郎氏)。ソニー 代表執行役 社長 兼 エレクトロニクスCEOの中鉢良治氏も「優れた金型の設計・製造能力を持っている」と一目置く(p.5の別掲記事参照)。

 Hon Hai社は,自社技術を守ることにも余念がない。500人を超える人員を知的財産部門に抱え,金型を使った部品について特許を豊富に取得している(図3)。Hon Hai社との特許係争にかかわった経験を持つTaiwan International Patent & Law Office,Patent Dept Sec.3(Japan) Group LeaderのZong-Yeu Kuo氏は,「Hon Hai社の係争能力は日系企業と同等以上に高い」と言う。

図3 知財の強さで定評  Hon Hai社は台湾企業としてダントツに強い知的財産権を持っていると評されている。例えば,米Technology Review誌とCHI Research社が,2004年にコンピュータ分野の米国特許を,ほかの特許が言及した回数や特許件数を基に評価したところ,Seagate Technology社に次ぐ順位という結果を得た(a)。知的財産権の申請件数も多い。台湾における2004年の申請件数は,第2位のRoyal Philips Electronics社の2倍近い(b)。(b)中のITRIは台湾のIndustrial Technology Research Institute(工業技術研究院)を指す。
図3 知財の強さで定評  Hon Hai社は台湾企業としてダントツに強い知的財産権を持っていると評されている。例えば,米Technology Review誌とCHI Research社が,2004年にコンピュータ分野の米国特許を,ほかの特許が言及した回数や特許件数を基に評価したところ,Seagate Technology社に次ぐ順位という結果を得た(a)。知的財産権の申請件数も多い。台湾における2004年の申請件数は,第2位のRoyal Philips Electronics社の2倍近い(b)。(b)中のITRIは台湾のIndustrial Technology Research Institute(工業技術研究院)を指す。 (画像のクリックで拡大)

安さのための内製部品

 高度な金型技術は,リード・タイムの短縮だけでなく,「安い」を実現する部品の原価低減にも効く。金型を使った筐体やコネクタといった機構系部品は「価格が高めな上,値下がりがプリント基板などの純粋な電子部品に比べて緩やか。調達先もプリント基板などに比べて限られる。我々のように大規模に内製すればコスト競争力を高められる」(Hon Haiグループの台湾Cheng Uei Precision Industry Co., Ltd.(通称Foxlink)の販売担当者)。例えば,Mg合金製の筐体を手掛ける専業メーカーの営業利益率は40%ほどと高い。これを内製するHon Hai社は,その利益分を受注価格の引き下げの原資に使える。