こうした高収益の源泉となっているのが,短期間での量産立ち上げと,これを支える徹底したコスト意識,そして技術力である。「速くて安くて正確。これだけそろった受託企業はほかにない。この分ではどこまで成長するかと考えると,怖さすら感じる」(Hon Hai社と取引のある民生機器メーカーの販売担当者)。

 Hon Hai社のコスト意識の高さは,台湾の台北郊外にある本社ビルを一目見れば分かる。町工場が並ぶ工業地域にある5階建ての社屋は,売上高が3兆円を超える企業のものとはとても思えないそっけなさで,周囲に溶け込んでいる。簡素なエレベーターが据え付けられているものの,従業員はもとより幹部も階段で移動するという。そのうわさを裏付けるように,本社ビルと同じ敷地内にある別の建物で開かれた株主総会に参加した際に,利用するよう案内されたエレベーターは,普段は貨物の運搬に使っているもののようだった。重い貨物を載せた台車が何度もぶつかったためか,壁の至る所に深いキズが刻み込まれていた。年に1度の株主総会は別として,外部の人間が乗ることがほとんどないエレベーターの修繕は必要ないと考えているようだ。

 コストがいくら安くても,出来上がった製品の品質が低ければ,世界中からこれほど多くの優良顧客を集めることはない。樹脂部品メーカーとして創業したHon Hai社がここまで成長した背景には,筐体の成形に使う金型を核とした確かな製造技術がある。

 それを象徴しているのが,Hon Hai社がiPod nanoの筐体裏面を鏡のように磨き上げる加工までを手掛けているという事実である。これは取引先企業などの話を総合して判明した。硬いステンレス鋼を短時間で研磨するには,さまざまなノウハウが必要となる。このため,ほんの数年前は豊富な経験を備えた新潟県燕三条の金属加工業者だけが担当していた。Hon Hai社は驚くべきことに検査以外は機械で半自動的に鏡面加工を施している。

2色成形も鏡面仕上げもこなす  2色成形とは,異なる種類の樹脂を組み合わせるため片方の樹脂を成形してから同一金型内でもう一方の樹脂を一体で成形する方法のこと。
2色成形も鏡面仕上げもこなす  2色成形とは,異なる種類の樹脂を組み合わせるため片方の樹脂を成形してから同一金型内でもう一方の樹脂を一体で成形する方法のこと。 (画像のクリックで拡大)