前回までのあらすじ
2003年4月に「開店」したiTunes Music Storeは,マスコミやユーザーに熱狂を巻き起こした。最初の1週間で100万曲以上を売り上げ,音楽配信に対するレコード会社の見方を変えた。同時に発売された第3世代iPodは,従来機種よりも薄く軽くなりユーザーを引きつけた。(以下の本文は,『日経エレクトロニクス』,2004年8月2日号,pp.165-167から転載しました。メーカー名,肩書,企業名などは当時のものです)

 カリフォルニアでも冬は寒い。だからDanikaは長袖のシャツを着て,その上にジャケットを羽織った。2003年も終わりに近いある日。細身のDanikaはシリコンバレーの街路を,しなやかに駆け抜けていく。

 厚着をした理由はもう1つある。袖の下に隠した「それ」を,誰かに見られるわけにはいかないのだ。幸い,Danikaの二の腕を心持ち盛り上げたそれに,気付いた者はいなかった。走るうちにDanika自身,腕に巻いたものの存在を忘れた。「そこにあるってことに,ほとんど気付かなくなった。まるで無意識の音楽体験だった」。

 Danika Clearyは,米Apple Computer,Inc.でiPod Product Manager,Worldwide Product Marketingを務める女性である。彼女は,あと一月余りで発表する「iPod mini」の試作機を,特製のアームバンドで腕に着け,ジョギング時の使用感を試していた。この時の経験から,DanikaはiPod miniの成功を確信した。

Sleeping on a Jet Plane

 Danikaは,2002年7月にiPodの開発チームに加わった。iPodの生みの親の1人,現在はDirector iPod and iSight, Worldwide Product MarketingのStan Ngの配下で,マーケティングを担当する。彼女の話しぶりは他のメンバーとそっくりで,何度も同じ単語を繰り返す。「ワオ」「信じられない」そして「体験」。一緒に働いた密度の濃い時間が,彼女らの口ぶりを似させるのだろう。