前回までのあらすじ
第3世代iPodがヒットした大きな理由が,音楽配信サービス「iTunes Music Store」との連携である。Apple社は,1年数カ月をかけてiTunes Music Storeを準備した。他のサービスと比べて使い勝手を改善した上,5大レコード会社を口説いてユーザーが喜ぶ条件をのんでもらった。(以下の本文は,『日経エレクトロニクス』,2004年7月19日号,pp.223-225から転載しました。メーカー名,肩書,企業名などは当時のものです)

FairPlay for DRM

 iTunes Music Storeで購入した楽曲が,iPod以外の携帯型プレーヤにコピーできないことも,音楽業界の安心感を増したようだ。iPodに格納した音楽ファイルは,基本的にパソコンにはコピーできない。

 Apple社は,当然DRM技術にも気を配った。iTunes Music Storeに加え,同時発表した第3世代のiPodに,「FairPlay」と呼ぶDRM技術を組み込んだ。同社独自の技術で,詳細は明らかにしていない。保護されたファイルをiPodに転送して再生できるほか,家庭内ネットワーク上での安全なストリーミング再生なども可能という。

 Apple社が他社と違ったのは,必要以上に強力なDRM技術を導入しなかったことである。レコード会社の過大な要求に対し,体を張ってユーザーの権利を主張した。それまでもApple社は,iPodの進化に応じて,段階的にDRM技術を組み込んできた。最初の世代では,楽曲ファイルの転送回数を制限するような厳格なDRM技術は用いず,画面に「音楽を盗用しないでください」などと表示するにとどめた。DRM技術を初めて導入したのは,朗読した書籍などのコンテンツを提供するサービス「Audible.com」に対応した第2世代機だった。Audible.comは独自のDRM技術を利用していたため,第3世代機の初期の製品では,その方式とFairPlayの2つを組み込んでいた。

 今のところFairPlayは,DRM技術としてまずまずの成績を上げている。2004年に入って,FairPlayによる保護を無効にするとうたったソフトウエア「PlayFair」が現れた。Chrisによれば,こうしたツールはFairPlayのセキュリティ・ホールを突いたものの,ツールが抽出するファイルは簡単には再生できないという。「今のところ,ビジネス上の被害は特にない。レコード会社も,こうしたツールが生み出すファイルが,大した問題じゃないことを分かってる」(Chris)。いずれにしてもApple社は,iTunes Music Storeを始めて1年後に公開したiTunes Version 4.5で,このセキュリティ・ホールをふさいだようだ。