前回までのあらすじ
目標は,2001年のクリスマス・シーズン。iPodの開発チームは,Apple社が抱えるハードウエアやOS,アプリケーション・ソフトウエアの開発部門と連携して,わき目もふらずに作業を進めた。iPodの内容をパソコンの音楽ライブラリと同期させる機能などが,半ば必然的に誕生した。(以下の本文は,『日経エレクトロニクス』,2004年6月7日号,pp.158-159から転載しました。メーカー名,肩書,企業名などは当時のものです)

The iTune Microcosm

 1つの体験をつくり出すという発想は,iPodのユーザー・インタフェースにも多大な影響を与えた。「iPodの重要な点の1つは,iTunesのインタフェースをiPodに反映させることだった。iPodを使ったときに,全く別のことをしているように思わせちゃダメなんだ。例えばiTunesが表示するメタデータを,iPodでもうまく見せる必要があるって,みんなが思ってた」(Chris)。

 実際,iPodのメニュー体系や表示の仕方は,iTunesのそれに似ている。アーティスト名やアルバム名をたどって楽曲に至る一連の流れは,iTunesそのままだ。ちなみにiPodのユーザー・インタフェースについても,Apple社は特許を出願している(米国特許出願番号2004/0055446)。発明者の1人として,Steve Jobsの名がある。

 もちろんiPodに,パソコンとすっかり同じユーザー・インタフェースを実装できるわけではない。「iPodのディスプレイはわずか2インチ。パソコンとはまるで違うってことを理解すべきだ。我々の信念は,iPodは編集する装置じゃなくて,再生専用だってこと。録音や曲目の整理などはパソコンでやって,iPodは再生だけすればいい」(Joz)。

 Jozの言葉は,初代のウォークマンを彷彿させる。ソニーが初めて世に出したウォークマンは,録音ができない再生専用の装置だった。それまでの「テープ・レコーダ」の概念を,根底から覆したのがそれだった。