一体,どちらの主張が正しいのでしょうか?

 両者の主張の根本には,著作権法で規定された「私的使用のための複製」にかかわる解釈の違いがあります。どちらが正しいのかは,一概には言えません。

 著作権法は,権利者の許可なしにコンテンツを複製することを禁じています。ユーザーが海賊版を作成・販売したり,誰もがアクセスできるサーバーにコンテンツをアップロードしたりすることは違法です。ただし,私的使用のために複製する場合は,権利者の許可は必要ありません(著作権法第30条の規定による)。

 これを権利者側から見ると,私的使用の場合には,本来持っている許諾の権利を放棄したことになります。その結果,消費者はCDの音楽を携帯型プレーヤーに移して外出中に聞いたり,テレビ番組を録画して後から視聴するといった利便性を得られます。自分たちが権利を放棄した結果,利便性が生じているのだから,それに応じた対価を還元してほしいというのが権利者側の主張です。つまり,一回だけでも複製したら,潜在的な損害が発生するというのが根本的な発想です。権利者側は,一般ユーザーでも事実上無制限にデジタル・コピーを作れる録音用CDや録画用DVDだけを問題視しているわけではないのです。そもそも,海賊版をつくったりすれば違法なわけですから,それらによる損害は最初から補償金の対象外という立場です。

 権利者側にすると,許諾の権利を放棄した結果,恩恵を受けているのはユーザーだけに限りません。機器を販売して利益を得るメーカーに対しても,利益の還元を求めています。こうした要求を実質的に満たすのが補償金制度であると,権利者側は考えています(図4)。

図4 著作権法では,私的使用の場合は,権利者の許諾がなくてもコンテンツを複製できる。つまり権利者は,許諾の権利を放棄したことになる。その結果,消費者やメーカーが受ける恩恵を還元してほしいと,権利者側は主張している。
図4 著作権法では,私的使用の場合は,権利者の許諾がなくてもコンテンツを複製できる。つまり権利者は,許諾の権利を放棄したことになる。その結果,消費者やメーカーが受ける恩恵を還元してほしいと,権利者側は主張している。 (画像のクリックで拡大)