西和彦氏と田中栄氏の対談の後編。両氏は,未来のクルマや自動車産業が向かう先に思いを巡らせる。前編はこちら

クルマの延長にある「ロボット」

田中氏 洋服とか靴の延長にクルマがあるというのは面白い発想です。クルマも見方を変えれば,「足の能力を拡張するための道具」であり,パワードスーツの一種といえるということかと思います。頭脳を持って自律的な判断でユーザーをアシストするという点で,進化のベクトルの一つはロボットとしての方向が強くなっていくということでしょうね。

 近年のロボット技術の進歩は凄まじいものがあります。各種センサ,サーボモータ,CPUなど,主要コンポーネントで軒並み高性能化と低価格化が進んでいます。これらロボット技術の進歩と,自動車のエレクトロニクス化がクロスするところに,クルマの未来があるのではないかと思います。

西氏 ロボット技術もそうですが,航空機の技術に学ぶものが多いのではないでしょうか。ジャンボジェット機が空港を飛び立って,目的地の空港に着陸するまで,パイロットはハンドルに指1本触れる必要がないのです。それは,全自動システムによって自動操縦が行われているからです。こういった技術が他の分野にあるにもかかわらず,自動車はいまだに人が運転しなければならない。

ハイブリッドからエンジンを外す

田中氏 ところで今,ガソリン代がどんどん上がっていますね。これ以上高くなれば,ガソリン車なんてごく限られた人しか乗れなくなる可能性があります。

西氏 ガソリン価格が上がっているのは,アラブと欧米の石油ビジネスに携わる人の陰謀じゃないかと思うんですよね。そんなに儲けてどうするんだという気もしますが,自分たちが原油価格を決めることで,世界中から利益を吸い上げようとしている。それに対抗するという意味も込めて,石油に依存しない電気自動車は有効だと思います。

田中氏 でも,エンジン好きな西さんとしては,エンジンのないクルマというのは頭の中でどう位置付けているのですか?

西氏 先ほども申したように,「エンジンだ,スピードだ」と言っているのはあくまで私個人の趣味の世界の話です。ビジネスの世界およびこれからの自動車産業の方向を考えたときに,重要なのはエンジンではなく,モータで走る電気自動車だと思っているということです。

 特に今注目しているのは,ハイブリッドカーのエンジンを外して同じ重さのバッテリーを積んで電気自動車に改造することです。どこでも充電できるように充電コードを付けたプラグインハイブリッドカーは,かなり市場からのニーズが高いと思います。私の計算では,1円の電気代で1km走ることができます。仮に,ガソリンの価格を150円/Lとしますと,ガソリン換算で150km/Lの燃費になるということになります。

田中氏 未来の自動車は電気自動車が有望だということですか?

西氏 そうですね。コストや地球温暖化問題を考えますと,原子力発電所で発電した電気を電気自動車に充電して走る方式が有利だとは思います。ただし,原油価格がどこまで上がって,そもそも原油がいつなくなるのかは誰にも分かりません。さきほど言ったように産油国や石油会社の思惑によっても左右される面も大きいと思います。ガソリン,ハイブリッド,水素,電気など多様な燃料が並存する状況が続くでしょう。