無類のクルマ好きで知られる西和彦氏と,IT業界を中心に活動されているビジネスプランナーの田中栄氏。既存の自動車ビジネスには属さない二人だからこそ,見えるものがあるはずである。日本メーカーに足りないものは何なのか,クルマの未来はどうなっていくのか---。本対談は,自動車技術の展示会「AT International」(2008年7月23日~,25日,日経BP社主催,幕張メッセ)の3日目(7月25日)の基調セッション「『セクシー』で『クレイジー』なクルマとは」の「前哨戦」としてお届けする。

田中栄氏
アクアビット代表取締役

田中氏 日本の自動車メーカーは現在,国際的に見て高い競争力を持っていると見られていますが,『未来予測レポート 自動車産業2009-2025』の作業を通じて考えさせられるのは,将来にわたって競争力を維持できるのかどうか,ということです。クルマは将来,ウオッチがたどったように実用性の高い超安価なクルマと高級ブランドとしての高価なクルマに二極分化する可能性が高いと考えます。前者の安価なクルマはアジアの新興国メーカーに侵食されていき,高級ブランドのクルマは欧州メーカーが依然頑張っている,という状況になると日本メーカーの居場所がなくなる危険性があると思います。

 そうならないために,いま日本メーカーが考えなければならないのがブランド作りだと思うのです。その際重要なのは,ユーザーが夢中になる,いわば「愛」を持てるようなブランドをいかに構築するかです。とりわけキーワードになると私が思っているのは,「セクシー」と「クレイジー」ではないかと思います。このあたりを話のとっかかりにして,クルマの未来を話し合ってみたいと思います。

 ところで西さんは,欧州車を何台もお持ちですが,どこに魅力を感じていますか?

西和彦氏
尚美学園大学教授,ITNY代表取締役

西氏 私個人の趣味の世界だということをお断りしてから言いますと,エンジンですね。クルマの魅力は何かと聞かれれば,私にとってはエンジン以外にはありません。いかに強力で高速に回る優れたエンジンか,それがすべてです。あんな金属のかたまりが回っている,それだけで奇跡だと思ってしまうんですね。そして,エンジンのあの音を聞くと,ムラムラッと来てしまいます。それを「セクシー」と呼んでもいいのかもしれませんが,ちょっと違うような気もします。「セクシー」というと「一瞬」というイメージですよね(笑)。でも,アクセルをベタ踏みして,エンジンが回り,ビューッと加速する時の心地良さは,快感が持続する感じでしょうか。「セクシー」を超えていると思います。ではどんな言葉がいいかというと・・・言葉では言い表せません(笑)。

「速さのためなら何でもする」

田中氏 「エンジン」ということは,加速,スピードが大切だと・・・。

西氏 そう,時速1kmでも速く走ろうという姿勢ですね。「速さのためなら何でもしました」という感じのクルマが好きです。例えば,今持っているあるクルマは,アクセルをちょっと踏むだけで,簡単に時速250kmは出ます。2000回転くらいまではファミリーカーに乗っている感じなのですが,3000回転を超えたあたりから「あ,違う」という感じになってきます。その感じがたまらないですね。