「権利者としての思いは理解いただけたと思う」と椎名氏

 デジコン委の「第4次中間答申」に基づき導入が決まったダビング10の実施は,同委員会で「関係者の合意」を確認した上で2008年6月2日午前4時に実施される予定だった。だが,6月2日までにダビング10機器への私的録音録画補償金制度の適用を巡る権利者と機器メーカーの対立が解決できなかったため,実施が延期されて宙に浮いた形になっていた。

 この状況を打開するため,経済産業省と文化庁は2008年6月17日,Blu-ray Disc録画機とその媒体を私的録音録画補償金制度の対象機器にする「Bul-ray課金」に合意したと,経産大臣と文部科学大臣の談話という形で発表した(Tech-On!関連記事1)。この合意にはBlu-ray Disc録画機が今後,地デジ録画機の主流になることを前提に,権利者の求める「ダビング10機器への補償金制度の適用」という条件を満たす狙いがあった。ところが,権利者側はこれに反発し,「この合意がダビング10の議論を前進させるものでもない」とむしろ否定的な見解を即日発表した(Tech-On!関連記事2)。

 今回の会合でも権利者側の委員を中心に,委員会を無視した省庁間の不透明な調整で問題を解決しようとする姿勢を批判する声が相次いだ。

 椎名氏は「今回の合意に関する具体的な資料は手元になく,報道で知るしかない。デジタル放送に着目した制度かどうか不明確であり,補償金制度の今後も明らかではない。この一点を持って『対価の還元』が果たされたとは思わない」と述べた。ホリプロ代表取締役社長の堀義貴氏は「明日(6月20日)は私の誕生日なんですが遂に何も起こらなかった」と笑わせたあと,「経産省のWebサイトに掲載された大臣談話を読んでも何を言っているか分からない。質問している記者もちゃんと分かって聞いているのか心もとない」とした。また「この委員会は本来,コンテンツを話し合うはず。ダビング10がずっと主役なのは残念。ブロードバンドを使った新しいビジネスについて通信事業者からの提案を聞きたかったが,ついに聞けなかった」と述べた。

 消費者の立場で議論に参加する生活経済ジャーナリストの高橋伸子氏からも「今週火曜日からの動きは非常に不愉快。外からボールを投げられたようだが投げた覚えのないボール。外から結論を迫られているようで憤りを感じている」との意見が出た。テレビ朝日の福田俊男氏は,「技術の進歩で見直しがありえるダビング10は暫定策。なぜ一里塚に過ぎないダビング10でこれほど混迷するのか分からない」とした。

 慶應大学の中村伊知哉氏は,「フォローアップWGの主査として合意の形成に至らなかったことを申し訳なく思うが,このような状態であれば『関係者一同,早期の実施を望んでいるが,期日の確定には至らない』と報告するしかないのではないか」と述べた。

 主査の村井氏はそれぞれの委員が表明した意見を聞いたうえで,「物事にはタイミング感がある。ダビング10に関して言えば北京五輪がまさにそのタイミング。それぞれの立場や意見があるが,本委員会は十分なコンセンサスを得ており,みなさんの間に対立関係はないと思う。私は親委員会へ『コンセンサスはあるが期日は決められない』と報告するのか」と述べ,暗に関係者の譲歩を促し,椎名氏の発言を引き出した。

 椎名氏は譲歩を表明するにあたり,「ダビング10はこの委員会が生み出した大きな成果で個人的には思い入れもある。先程来の発言で,権利者としての思いは理解いただけたと思う」とした。