今の制度は,対価をメーカーと消費者で分かち合う形になっているが,もし補償金制度を廃止してDRMに移行するならば,負担するのは消費者だけになる。本当にそれでいいのか。メーカーはDRMの開発などで貢献していると言い訳するが,それは彼らのビジネスであって,クリエーターのためのボランティアではない。

――だとするなら,メーカーはどの程度の利益をクリエーターに還元すべきなのか。

椎名氏 それはわからない。欧州は欧州なりの判断があるだろうし,日本は日本なりの判断があると思う。

――利益の還元手段は補償金だけなのか。

椎名氏 補償金だけとは限らないが,今あるそれらしい制度は補償金だけ。もし補償金制度によらない方法があるなら,それを提案すべきだ。ダビング10を決めたデジコン委の4次答申が出て1年近くたつが,「権利者への対価の還元」の別の手法は一切提案されていない。

 制度としてメーカーの利益を何らかの形でクリエーターに還元する仕組みが必要ということだ。その現実的な制度として現在補償金があるけれども,それがやせ細っているし,本来協力すべきメーカーが非協力的であること自体が問題。だからまず,補償金を立て直してくださいと言っているわけです。

「文化庁調整案未満の妥結点はない」

――この問題の解決のために,総務省と文化庁,それに経済産業省という三つの省庁が調整に動いていると聞く。

椎名氏 調整には期待している。実際,3省庁の局長級会談が行われたりしていたのは知っている。ただし,その内容は正直言って伝わって来ていない。水面下で何が行われているかよく知らないし,実のある話し合いがあったかも分からない。

――省庁間の調整をした場合に,もっと権利者に譲歩を強いる結論になる可能性はないのか。

椎名氏 それはあり得ない。権利者にとって文化庁調整案未満の妥結点はない。