地デジを家庭などで録画して楽しむ際の新しい著作権保護ルール「ダビング10」。当初の予定では,2008年6月2日に実施されるはずだった運用切り替えは延期され,2008年6月18日現在,運用開始のめどが立たない状況にある。

 ダビング10の導入を決めたのは,総務大臣の諮問機関である情報通信審議会傘下の「デジタル・コンテンツの流通の促進等に関する検討委員会(デジコン委)」である。ダビング10への移行は同委員会が2007年8月に公表したいわゆる「第4次中間答申」に基づき,同委員会の合意のうえで実施される手はずになっていたが,6月2日の期日までにこの合意ができなかった。

 合意が難航している背景には私的録音録画小委員会(録録小委)における権利者と家電メーカーとの深刻な対立がある。録録小委は,文部科学大臣の諮問機関 文化審議会 著作権分科会傘下で,私的録音録画補償金制度の抜本的改革を審議している。

 デジコン委,録録小委の両方に委員として参加し,権利者側のキーパーソンの一人である実演家著作隣接権センター(CPRA)の椎名和夫氏に,この問題の背景について聞いた。なお,このインタビューは2008年6月11日に行われた。(聞き手は山田 剛良)


――まず現状認識を教えてほしい。どこでどんな問題が起こっているととらえているのか。

実演家著作隣接権センター(CPRA)の椎名和夫氏
実演家著作隣接権センター(CPRA)の椎名和夫氏 (画像のクリックで拡大)

椎名氏 問題は二つある。まず,録録小委で話し合われてきた私的録音録画補償金制度の改革案に家電メーカーが反対していること。過去2年間続けてきた議論を踏まえ,事務局(文化庁)は2008年5月8日に開かれた会合で「調整案」を提示した。この調整案に対し,権利者と消費者の委員は合意の意向を示したが,メーカーだけが反対した。立場は違うものの権利者と消費者のそれぞれが譲歩したのに対し,メーカーだけが一切譲歩しなかった。彼らが2年も3年も前に主張していたことをまた蒸し返しちゃった。

 ダビング10導入に当たっては,デジコン委が「クリエーターへの対価の還元が必要」と検討した経緯がある。これは第4次中間答申にもはっきり書かれている。権利者はこれをデジタル録画機に対する補償金制度の適用を意味すると理解している。デジコン委は補償金問題の帰趨をウオッチしており,録録小委が紛糾したことで,ダビング10の実施が止まっている。