建設や農業などの現場では,様々な特殊自動車が活躍している。こうした特殊車両は,物の運搬や耕作作業など様々な機能を提供する専用の機構系を備えていることが多い。実は,機構系の制御システムにおいても,マイコンが重要な役割を担っている。今回は,農業用トラクターに取り付けて荷役作業などをこなす装備「フロントローダ」を製造する三陽機器(本社:岡山県里庄町)に,その制御におけるマイコンの活用方法などについて聞いた。

図1

図1 トラクターに取り付けられた
アーム状のフロントローダ

 「フロントローダ」とは,農業用トラクターの前方に取り付ける作業用装備を指す(図1)。用途に合わせて様々なフロントローダが用意されている。例えば,土砂や収穫物を運ぶためにアームの先端にシャベルをつけたフロントローダ,ロール状の牧草を左右からはさんで運搬するためのフロントローダ,除雪用フロントローダなどがある。日本国内には主なトラクター・メーカーが4社ある。この4社が提供している,ほとんどのフロントローダをOEMのかたちで供給しているのが三陽機器である。

 同社が,フロントローダに最初にマイコンを搭載したのは1989年のことだ。それまでのフロントローダは,ワイヤを使って油圧バルブを直接操作するシステムを採用していた。ところが,このシステムの場合,操作ハンドルが重く,しかも細かい制御が難しかった。そこで,油圧バルブを機械式のものから電磁弁に置き換えて,電子制御システムを導入することにした。「当初は電磁弁に流す信号をロジックICで構成した専用回路で制御していました。ところが細かい機能の調整のたびに制御回路の設計を変更しなければなりません。そこでソフトウエアの変更で対応できるというマイコンの特徴に目をつけたのです」(同社創造部メカトログループの松本浩グループリーダ)。

図2

図2 ジョイスティック形式の操作ハンドル

 フロントローダをマイコン制御にしたことで,重かった油圧ハンドルに代わって,小さな力で動かせるジョイスティック式のコントローラでフロントローダを操作できるようになった(図2)。このとき,ユーザーである農家の人々から一日作業しても腕が疲れることはなくなったという喜びの声を数多く聞いたという。またジョイスティックの細かい動作にフロントローダの動作を追随させることが可能になり,操作スティックを小さく傾けたときは動きも小さく,大きく傾けたときは動きも大きくといったように,作業者が直感的にフロントローダを操作できるようにもなった。

 その後1995年には,フロントローダの稼働範囲や稼働速度をマイコンで記憶させる機能を実現した。これにより作業者がビニールハウス内でフロントローダの操作を間違っても,高く上がり過ぎて屋根を突き破るようなトラブルはなくなった。またフロントローダの下降速度にも上限を設定できるようにし,積んだ荷物が極端に重い場合でもゆっくり下りるようにすることで動作の安定性がさらに高まった。その他にもマイコンによる機能改善はたびたび行われているが,中でも大きな発展をもたらしたのは,フィードフォワード機構を取り入れた2001年発売のモデル「PLD」だろう。

「夏と夜は動作が鈍くなる」