Vice President and General Manager, Mobile and Device SolutionsのGary Kovacs氏。
Vice President and General Manager, Mobile and Device SolutionsのGary Kovacs氏。
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 2008年5月に米Adobe Systems Inc.が発表した「Open Screen Project」について,同社Vice President and General Manager, Mobile and Device SolutionsのGary Kovacs氏が本誌インタビューに応じた。Open Screen Projectの狙いや,それで実現することを中心に話を聞いた。

――まず,改めてOpen Screen Projectの狙いを説明してほしい。
Kovacs氏 Adobe社はこれまで,「PostScript」や「Flash」などさまざまなコンテンツを実現するためのツールや実行環境を提供してきた。次の波は,携帯電話機を含むモバイル機器だと考えている。
 ところがモバイル機器は,実行プラットフォームが細分化されている。当社のFlash Playerは5億台の携帯電話機に搭載されているが,それでも浸透率は20%だ。Javaの実行環境といえばもっと多いが,Esmertec社の「Jbed」やアプリックスの「JBlend」,Nokia社のJava実行環境など細かく見ればバラバラな状況だ。
 Open Screen Projectは,一貫したWebのユーザー体験をすべての機器にもたらすと同時に,一貫したアプリケーション・ソフトウエアの実行環境を提供するためのものだ。そのために新しい実行環境やツールを用意するのではなく,既存の開発者やコンテンツ作成者が慣れたツールを使えるようにする。そのために,Flashや「AIR(Adobe Integrated Runtime)」をオープンな形で提供するのがOpen Screen Projectだ。パソコン向けに作成したコンテンツが,そのまま携帯電話機で動作する。

――具体的に何を「オープン」にしたのか。
Kovacs氏 オープンにしたのはFlashやAIRを含む技術などだ。まずライセンスにおける制約を外し,Flashのファイル形式やビデオ形式を公開した。またライセンス料をなくす。またFlash Playerなどを移植するための移植層のAPIや,無線ネットワーク経由(over the air:OTA)でAIRやFlashを更新する手順を公開した。

――しかし,GNUのオープンソース・プロジェクトに「Gnash」というFlash互換プレーヤが存在する。別にOpen Screen Projectとしなくても実装が可能だったのではないか。
Kovacs氏 これまでのライセンスだと制約があるため,GnashはFlashの仕様書を参照していないはずだ。だから,完全な互換性を確保するのが難しい。Open Screen Projectによって,完全な互換性を確保できる。ただ,ライセンス料がかからないので,こうした互換ソフトウエアを採用する意味はあまりないと思う。

――Flash Player自体をオープンソース化するという考えではないのか。
Kovacs氏 それは考えていない。Javaで起こったような,プラットフォームの細分化がまた起きてしまう可能性があるからだ。オープンソース化自体はさまざまなプロジェクトに広げていくが,Flash Player本体のオープンソース化はしない。

――ライセンス料は常にゼロ,ということでよいのか。
Kovacs氏 次期メジャー版からそうなる。ただしライセンス料がかからなくなる条件はある。OTAでの更新をできるようにすることと,コンテンツが正しく動くことだ。

――ライセンス料を取らないというのは,Adobe社にとってマイナスにならないのか。
Kovacs氏 確かにモバイル製品のライセンス・ビジネスという点ではマイナスだが,それ以上に実行環境の普及が重要だ。その結果として,「Photoshop」や「Illustrator」などの「Creative Suite」製品の売り上げが伸びることが期待できるからだ。

――確かAIR発表時には,“AIR Lite”という形で実装すると説明していた。それだとパソコンと互換性がなくなる。
Kovacs氏 次期のメジャー版はパソコン用とモバイル機器用とで完全互換にする。AIR LiteとかFlash Liteというものはなくなる。いわゆるスマートフォン向けにパソコン用と同じものを提供する。

――しかしFlashやAIRは決して軽くない。スマートフォンとはどの程度の仕様をターゲットにしているのか。
Kovacs氏 Flash Playerは300MHz動作のARM 11で,主記憶を64Mバイト程度搭載したものをターゲットにしている。AIRはもう少し軽いもので動かそうとしている。200MHzのARM9を搭載した,いわゆる「Feature Phone」と呼ばれるものだ。