無線通信チップの開発を手掛ける米Ozmo Devices社は,無線LANをPAN(personal area network)の用途で使える技術を開発した(ニュース・リリース)。

 この技術を使えば,マウスやヘッドセット,ゲーム・パッドといった小型機器を,無線LANでパソコンなどと接続できる。「無線LANなら,Bluetoothと違ってほとんどのノート・パソコンが標準装備している。いわば,PANの用途で最高のプラットフォームだ。我々の技術を使えば,USBドングルを挿すことなく,無線マウスや無線ヘッドセットをパソコンと接続できる」(同社 President and CEOのDave Timm氏)。同社は2008年秋までにチップの量産出荷を始めるという。

図1 Ozmo社によるデモ。無線機能を拡張するUSBドングルを使うことなく,無線マウスをパソコンと接続できた
図1 Ozmo社によるデモ。無線機能を拡張するUSBドングルを使うことなく,無線マウスをパソコンと接続できた (画像のクリックで拡大)

 これまで無線LANは,Bluetoothと比べ消費電力が高く,マウスなどの小型周辺機器に載せるのは難しいとされていた。Ozmo社は,消費電力を抑えた独自の通信プロトコルを開発。このプロトコルを基に,小型周辺機器に載せる無線LAN送受信チップと,無線LANパソコン向けミドルウエアをそれぞれ開発した。

 Ozmo社によれば,データ伝送速度は9Mビット/秒とBluetoothの3倍以上を確保した。これにより,ヘッドセットなら非圧縮音声データなど広帯域のデータを伝送できる。遅延時間は10ms以下でBluetooth並み,接続時間は1秒以下とBluetoothの1/3以下である。「Bluetoothのように周波数ホッピングを行う必要がない分,接続時間を短縮できる」(Timm氏)。

消費電力はBluetoothより低い

 同社はチップの消費電力について明らかにしていないが,マウスの場合は「Bluetoothで電池の持ちが3~4カ月であるところ,我々のチップを使えば9カ月は持つ」(Timm氏)という。ヘッドセットでは「Bluetoothの会話時間が4~6時間として,我々のチップなら15~20時間」(同氏)。

 同社は,無線LAN送受信チップの消費電力を抑えるため,二つの工夫を施した。一つは無線出力のデューティ比を低く抑えられるプロトコルにしたこと。例えばマウスの場合はデューティ比は2%,つまり98%がスタンバイ状態で,2%がアクティブ状態となる。アクティブ状態の更新周期(update period)は,用途に合わせて5ms以上の任意の値を設定できる。「例えばゲーム・パッドのように,遅延時間1/60秒以下という高い応答性を求める用途では,更新周期を10msに設定すればよい」(Timm氏)。

図2 デューティ比(peripheral comm./update period)を低くして消費電力を抑えた
図2 デューティ比(peripheral comm./update period)を低くして消費電力を抑えた (画像のクリックで拡大)

 もう一つは,スタンバイ時の無線LAN送受信チップの消費電力を抑えたこと。同社は「スタンバイ状態でディープ・スリープに落とすことで電力の消費を抑えた」(Timm氏)とするのみで,技術の詳細は明らかにしていない。

 パソコン向けミドルウエアの役割は,通常の無線LANと,複数の周辺機器とを同時に接続できるようにすることである。具体的にはTDMA(time division multiple access)の要領で,通常の無線LANと複数の周辺機器向けに通信時間を割り振る。これにより,例えば無線LANでインターネットに接続しつつ,最大で20~30個の周辺機器を接続できる。接続した機器はUSBデバイスとして認識される仕組みだ。

図3 ミドルウエアを使い,通常の無線LAN接続と周辺機器の接続を両立させた。OSには周辺機器をUSBデバイスとして認識させる
図3 ミドルウエアを使い,通常の無線LAN接続と周辺機器の接続を両立させた。OSには周辺機器をUSBデバイスとして認識させる (画像のクリックで拡大)

 無線LAN送受信チップは130nmのCMOSプロセスで製造する。RF送受信回路,デジタル・ベースバンド回路,CPUコア,メモリ,汎用デジタル・インタフェース回路などを実装した。「このチップに水晶振動子,外部メモリ,電池,各種インタフェースを実装するだけで周辺機器を構成できる」(Timm氏)。物理層はIEEE802.11g/a,セキュリティはIEEE802.11iに準拠する。

図4 左上に無線LAN送受信LSIを載せた最小構成の基板。背景の白い枠は名刺である
図4 左上に無線LAN送受信LSIを載せた最小構成の基板。背景の白い枠は名刺である (画像のクリックで拡大)

 Ozmo社は,ホスト機としてノート・パソコンのほか,無線LANを搭載したゲーム機や携帯電話機などにも技術を適用したい考え。同社はチップおよび周辺機器の試作品を「COMPUTEX TAIPEI 2008」のIntel社ブースで展示する。同社はこの技術の開発で,Intel社と提携関係にあるという。