生産設備のパフォーマンスを高めるうえで重要な役割を担っているのがマイコンなどのコンピュータを核にした電子制御システムである。実は,マイコンの採用を契機に飛躍的に進化した生産装置の一つに,様々な製品のパッケージに使う袋を製造する製袋機がある。マイコンの応用展開が始まった1970年代に,いち早く製袋機の制御にマイコンを導入したトタニ技研工業(京都市南区)に,製袋機にマイコンを搭載した経緯や製袋機におけるマイコンの役割などについて聞いた。

 1952年創業,1961年に法人化したトタニ技研工業は,日本の大手製袋機メーカーとして長年にわたって活躍してきた企業だ。主にパッケージを生産するメーカーに向けて製袋機を供給しており,同社の装置がかかわる分野は,食品や日用品,医薬品など多岐に渡る(図1)。特に同社は,1960年代に日本で初めて登場したレトルト・カレー用のパッケージを製造する装置を作ったことで関連業界では広く知られている。

図1
図1 トタニ技研工業の製袋機
同社の最新機。ロール状の素材を引き出しながら接着やカットを行って袋を製造する。

 同社が,初めて製袋機にマイコンを導入したのは1976年のことだ。24時間連続稼働できる製袋機を実現しようと考えたのがマイコン導入のキッカケだった。この当時,製袋機は一定の加工精度を維持させるのが難しかった。袋の材料が柔軟で,しかも形状を一定に保つのが難しいからだ。このため生産ラインでは,目視による加工精度の管理が欠かせなかったという。これが24時間連続稼働を実現するうえでの大きな課題だった。

 一般的な製袋機では,袋の材料には,プラスチックやポリエチレンなど比較的軟らかい素材を使ったフィルムを使う。フィルムを巻いたロールから,一定量ずつ引き出して装置で袋状に加工する。加工する方法には,いくつかある。例えば,一つは引き出したフィルムを二つ折りにして,重なったフィルムの両端に熱を加えて接着したうえで切断する。また,二つのロールから別々に供給したフィルムを重ねて,両端と底を接着して切断する方法もある。いずれの方法においても問題になるのが,ロールからフィルムを引っ張り出す際に,どうしてもフィルムの伸縮が発生することだ。しかも,伸縮の量は,フィルムの材質が必ずしも均一でないために,同じ力で引っ張っても引っ張るたびに変化する。特に製袋機の場合,袋1枚分のフィルムを引き出して,一旦止めてから接着と切断の作業を行う。伸縮性のある素材を引っ張ったり止めたりする作業を繰り返すことになるので,引き出すたびにフィルムの寸法や動きが変化し,袋の仕上がりのバラ付きを招いてしまう。さらに生産ラインでは,静電気によって素材がよれたりするなど変形することも考慮しなければならない。

戸谷幹夫氏
戸谷 幹夫 氏
トタニ技研工業
代表取締役社長

 こうした問題を解決し,製袋機の24時間稼働を実現しようと取り組んだのが,当時京都大学の大学院生で,現在同社の代表取締役社長をつとめる戸谷幹夫氏だった。博士課程で計測工学を研究していた戸谷氏は,父親が社長をつとめていた同社が,製袋機の自動運転実現に取り組んでいることを知り,同社に入社した。