かつては米Apple社のパーソナル・コンピュータ。最近では米Microsoft社の「Xbox」,ソニー・コンピュータエンタテインメントの「プレイステーション3」,任天堂の「Wii」といった主要な家庭用ゲーム機の心臓部を担うプロセサ「PowerPC」。登場以来,その技術を受け継ぐ製品が数多く生まれている。それらの系譜は,やや複雑である。


(画像のクリックで拡大)

 PowerPCの元となったのは,米IBM社が開発した,RISC型プロセサ「Power」である。最初のPowerPCに当たる32ビットRISC型プロセサ「PowerPC 601」は,そのサブセットというかたちで生まれた。Appleのパーソナル・コンピュータ向けに開発されたもので,設計や製造にはMotorola社(現在の米Freescale Semiconductor社)もかかわっている。

 これに続いて登場したのが,組み込み用途向けにPowerPC 601の省電力化を進めた「PowerPC 603」。さらにPowerPC 601を基に演算能力を高めた「PowerPC 604」も生まれた。PowerPC 604は,後に64bit化した「PowerPC 620」に発展する。ただし,こちらは様々な問題が市場で噴出。後継の「PowerPC 630」は,開発に着手していたものの市場に出ることはなかった。だが,ここで培われた技術は,PowerPC 601/603/604の後継として1997年に登場した「PowerPC 750」に引き継がれている。

 PowerPC 750は,最新の半導体プロセスを取り入れると同時に,キャッシュ構成などアーキテクチャの改良を加えることで動作周波数を向上しながら現在も製造されている。2002年にはIBM社のハイエンド64ビットRISC型プロセサ「Power4」のサブセットというかたちで「PowerPC 970」が登場。これを高速化した「PowerPC 970FX」やマルチコア化を図った「PowerPC 970MP」と発展している。このPowerPC 970のコアは,複数の処理を同時に実行するSMT(Simultaneous Multi-Threading)の技術を取り入れたうえで,米IBM社,ソニー,ソニー・コンピュータエンタテインメント,東芝が共同で開発した高性能プロセサ「Cell Broadband Engine(Cell BE)」の中にPPE(Power Processor Element)として組み込まれている。

組み込み向けに製品展開

 こうした流れとは別に,IBM社は組み込み向けに400番台のコード名を持つPowerPCを開発している。初代の製品は1994年に登場した「PowerPC 403」である。MMU(memory management unit)やFPU(Floating Point number processing Unit),キャッシュ・メモリさえも省いた,きわめてシンプルなアーキテクチャを備える。動作周波数は,20MHz~80MHzと低い。同社は,このプロセサを基に様々な派生品を展開した。例えば,1996年に,PowerPC 403の性能を少し高めた「PowerPC 401」や,PowerPC 750の技術を導入するかたちで高性能化を図った「PowerPC 405」を製品化。翌年には仕様を若干変更した「PowerPC 440」を市場に投入している。PowerPC 440は,SoC(system on a chip)への展開を考慮して設計されており,昨今のPowerPCコアをベースにしたSoCの基本となったと言っても間違いない。

 PowerPC 440は,IBM社のスーパーコンピュータ「BlueGene/L」にも搭載された。PowerPC 440を基にSMP(Symmetric Multiple Processor)対応を図った「PowerPC 450」というコアは,同じくIBM社のスーパーコンピュータ「BlueGene/P」に搭載されている。この流れを汲む組み込み向けPowerPCの最新コアが2006年に登場した「PowerPC 460」である。マルチコアやDSP拡張など様々な特徴を備える。IBM社は,2004年にPowerPC 400シリーズに関連する知的所有権と関連資産を米Applied Micro Circuits Corporation(AMCC)に売却。現在PowerPC 400シリーズはAMCCから発売されている。