2004年9月にECU(電子制御ユニット)向けソフトウエア基盤などの標準化団体として立ち上がり,現在100社以上の企業がメンバーとして名を連ねて活動を活発化させているJASPAR。当時,その設立に尽力したのが,トヨタ自動車 常務役員の重松崇氏である。JASPARのような団体の必要性は以前から感じていたという。背景にはクルマの電子化が加速する中で「このままいけばクルマを造れなくなる」という危機感があった。JASPAR設立の狙いはどこにあったのか,トヨタ自動車としてどのようにかかわっていくのか…。ここに,JASPAR設立時に日経エレクトロニクスが同氏にインタビューした際の記事を再掲する。ソフトウエアを含めたカー・エレクトロニクスの重要性や標準化の大切さなど,その考え方は現在も自動車業界に脈々と流れていると言えよう。
トヨタ自動車 常務役員
――JASPAR設立のキッカケは?
随分前から必要性を感じていました。もう3年~4年も前です。ソフトウエアの規模が拡大してきたこともありますが,それよりもシステム同士を接続するためのワイヤ・ハーネス(電線の束)の量が増えてきたことが大きかった。特にトヨタ自動車の場合,クルマにオプションとして取り付けるシステムを次々と開発しますから…。その種類と量がすごく増え,それに伴いワイヤ・ハーネスも増大し,もうこれはダメだと。
そこで今のクルマの造り方をよく見ると,サプライヤーが提案する個々のシステムを組み合わせてクルマに載せようとしている。だから,バラバラなシステムの集まりになってしまう。でもサプライヤーからすればなるべく多くの品ぞろえがあった方がいいわけで…。これは自動車メーカーが仕切らないといけないと思ったのです。ただ,自動車メーカー1社だけでプラットフォームをつくっても高くなりますから,他社に「CPUもソフトウエアも共通化できますから,一緒にやりませんか」と声を掛けたわけです。自動車メーカーにとっては非競争領域ですから,標準化したほうが望ましい。
具体的にはこれから皆さんといろいろ議論しながら,ハードウエアとしての電子プラットフォーム,そしてその上に載せるソフトウエアの標準化を順番にやっていきたい。個人的には,こうした団体がもう少し早く立ち上がればよかったかなと感じています。
ただ今回,国内の自動車業界にこうした団体ができたこと自体,エポックメーキングなことだと思います。クルマの電子化が進展したことで,日米欧の自動車メーカー間で競争が始まるよりも先に,自動車メーカーとサプライヤーの間でせめぎ合いが起こっています。これまでは自動車メーカーがどんなに大きな顔をしていても,デンソーやドイツRobert Bosch社などサプライヤーが提案してくれたシステムを選んでクルマに載せていた。それが今は「我々はこう思う。こうした機能をクルマに入れたい」ということがまず先にある。自動車メーカーが電子プラットフォームをつくるとともに,その上に載せるシステムも考え,それに適合するものをサプライヤーに持ってきてもらう。つまり,クルマ造りのプロセスが従来とは変わったんです。
――自動車メーカーを頂上としてトップダウンに設計を進めていかないと,自動車全体のシステムが組めなくなりつつあるっていうことですね。
そう,もうできない状況なんです。実は僕たちはそこに気付くのが遅かった。DaimlerChrysler社やドイツBMW社といった欧州の自動車メーカーは,日本よりも3年くらい先行して動いた。
AUTOSARもJASPARも,設立の狙いは同じです。Bosch社など昔から力のあるサプライヤーからすると「自動車メーカーから成るAUTOSARにソフトウエアのことが本当に分かるのか」といった思いがあるんじゃないでしょうか。それは多分JASPARでも同じ。あるサプライヤーにJASPARの話をした時,「トヨタや日産でもシステムの構造設計はできるでしょう。ただ,それを実現する電子プラットフォームは,ソフトウエアも含めてサプライヤーがつくった方がいいのでは」という意見を聞きました。電子プラットフォームやソフトウエアまで自動車メーカーが仕切って開発する必要があるのかっていう反発です。