試作したデジタル・スピーカーをデモンストレーションしている様子。このデジタル・スピーカーは,6本のボイス・コイルを1個のスピーカーに組み込んだもの。口径25cmのスピーカーを駆動する電源は,1個の単1乾電池である。
試作したデジタル・スピーカーをデモンストレーションしている様子。このデジタル・スピーカーは,6本のボイス・コイルを1個のスピーカーに組み込んだもの。口径25cmのスピーカーを駆動する電源は,1個の単1乾電池である。
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 Trigence Semiconductorは,法政大学 理工学部 教授の安田彰氏の研究グループと共同で,フルデジタルでのオーディオ再生を可能にするデジタル・スピーカーを開発した。デジタルのオーディオ信号を入力し,この信号を空間で合成して空気の振動に変換する。従来は,入力したアナログのオーディオ信号を空気の振動に変えていた。これまでは,D級アンプを用いれば増幅まではデジタル化できたが,LCフィルターでアナログ信号に変換してからスピーカーで出力する必要があった。デジタル・スピーカーを用いると,LCフィルターが不要になるので,デジタル処理したオーディオ信号をスピーカーに直接入力できる。さらに,アナログ・スピーカーを駆動するために12V程度の電源が必要だったのに対し,開発したデジタル・スピーカーは1.5Vで駆動できる。デジタル処理回路に使う低電圧の電源を利用できるので,従来必要だった12Vの専用電源が不要になる。これらの効果により,オーディオ再生の回路構成が簡略化するという。

 今回開発したデジタル・スピーカーは,2008年5月17~20日にオランダで開催されるオーディオ関連の学会・展示会「124th Audio Engineering Society Convention」で発表する。スピーカーの開発に当たっては,三菱鉛筆とリードサウンドの協力を得た。

 開発したデジタル・スピーカーは,複数個のスピーカーで構成するスピーカー・アレイ,あるいは複数個のボイス・コイルを組み込んだスピーカーである。複数個のスピーカーを使う場合には,デジタル信号に応じて各スピーカーの駆動をオン/オフさせる。複数個のボイス・コイルを使う場合には,各コイルに伝える電流をデジタル信号に応じてオン/オフさせる。後者の場合,各コイルによる磁界がスピーカー内で合成され,それが空気の振動となって出力される。各スピーカーおよび各コイルに入力するオーディオ信号は,デジタル・オーディオ信号を基にTrigence Semiconductorが開発した技術「Dnote」によって変調して作り出している。

 複数個のスピーカーを使う場合,音を合成することによってサラウンド効果を出したり,あるいは特定の方向でのみ音声が聴こえる効果を得たりできるという。