1980年代には,車両に占めるエレクトロニクスのコスト比率は3%程度だった。これが2005年には20%になり,2015年ころには40%になる見込みである。車種のグレード別でカー・エレクトロニクスが占めるコスト比率を見ると,コンパクト車が15%,ラグジュアリー車が28%,ハイブリッド車が47%となる(図2)。

 車載半導体は用途別にエンジン系や安全走行系,ボディ系,情報系,センサ系に分類できる。パワー半導体や制御システム用マイコンなどの機能での分類も可能だ。中でも,車載マイコンの搭載数は急激に増加しており,国産普通車では2005年に平均37個,高級車では平均70個にも及んでいる1)。ハイブリッド車にカーナビを搭載する場合,車載半導体に使用するSiの使用量を150mmウエハーに換算すると0.96枚となり,パソコンの0.12枚に対して約8倍となる(図32)

 今後,交通事故を未然に防ぐプリクラッシュ・セーフティー・システムやタイヤ空気圧モニターなど自動車の安全性や快適性,利便性を向上させる技術分野でエレクトロニクス化が進展すると予想される。エネルギーや環境問題への対策としてハイブリッド車への移行が進めば,自動車本体に占める車載半導体のコスト比率も高まるだろう。

 車載半導体市場は平均して対前年比2ケタと安定して成長しており,半導体市場全体の成長率が大きく乱高下するのとは対照的である。2004年の車載半導体の市場は1.8兆円規模であったが,2008年に2.6兆円,2015年に4.9兆円規模となり,半導体全出荷金額の11.2%を占めると予想されている3)。将来,携帯電話機やデジタル家電などの市場規模と同等になり,半導体市場を牽引するだけの影響力を持った市場になると予想する。

車載半導体の開発はこれまでと異なる

 車載半導体を構成する産業構造は,以下の三つに分類できる。車載半導体を採用する自動車メーカーと,車載半導体を例えば電子制御ユニット(ECU)のようにモジュール化した状態で自動車メーカーに納入する電装品メーカー(Tier 1と呼ばれる),そして車載半導体を設計・製造・販売する半導体メーカーだ注3)

注3) 電装品メーカーは自動車メーカー単位に系列化していることが一般的である。近年は電装品メーカーが巨大化し,自動車メーカーの系列にとらわれない活動をするメーカーも現れている。しかし,全体で見るとまだ系列の枠を超えた動きは多くない。

 2007年に自動車販売台数でトヨタ自動車が世界一になろうとしているが,車載半導体の購入や販売で日本の半導体メーカーは中堅グループの域を出ていない。半導体メーカーで車載半導体の上位3社である米Freescale Semiconductor,Inc.,ドイツInfineon Technologies AG,仏伊合弁STMicroelectronics社が占めるシェアは年々増加傾向にあり,2001年には27.3%であったのが2005年には35%まで上昇し,寡占化が進みつつある1)

 こうした状況の下,車載半導体は今後も安定した成長率と市場規模の拡大が期待されるため,多くの半導体メーカーがリソースの集中や新規参入を表明している。一方,自動車メーカーにとっても車載半導体は車両の機能向上だけでなく,消費者に付加価値を提供する意味でも不可欠になりつつある。ただし,車載半導体の開発は半導体産業と自動車産業のそれぞれが,これまで携わってきた開発手法と大きく異なる部分が多い。