写真1:TENORI-ONのコンセプトを作ったメディア・アーティストの岩井俊雄氏
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写真2:原点といえる手回し式オルゴール
写真2:原点といえる手回し式オルゴール
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写真3:岩井氏が1995年に発表した「映像装置としてのピアノ」
写真3:岩井氏が1995年に発表した「映像装置としてのピアノ」
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写真4:据え置き型のTENORI-ONとも見える「音楽のチェス」
写真4:据え置き型のTENORI-ONとも見える「音楽のチェス」
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 「電子技術は進歩したが,新しい楽器を生み出す力は弱くなってしまったのではないだろうか」。こう問題提起したのは,新コンセプトの楽器「TENORI-ON」をヤマハと共同開発した,メディア・アーティストの岩井俊雄氏(写真1)。2008年4月25日のTENORI-ON発表会(関連記事)において,TENORI-ONが生まれるまでの岩井氏の創造過程を明らかにした。

 TENORI-ONを生み出した最大のモチベーションは,楽譜を読めなくても音楽を作りたいという点だ。そこから,時間軸×音程をマトリックスにしたユーザ・インタフェースが生まれた。その原点となる手回し式オルゴールを岩井氏はプレゼンで披露した(写真2)。ハンドルを回すと,紙の帯を読み込み,穴のあいたところで音が鳴る(ビデオ参照)。この譜面に時間軸×音程というTENORI-ONの原点を見ることができる。

 時間軸×音程を岩井氏なりに最初の作品にしたものが,1995年に発表した「映像装置としてのピアノ」である(写真3)。トラックボールの操作によって,オルゴールの紙の帯にあたるスクリーンが光り,それがピアノに届くとピアノが鳴る,というものだ。ビデオを見ていただくのが分かりやすいだろう。

 この最初の段階で,手回し式オルゴールにはないが,TENORI-ONを特徴付ける要素の一つ「光」が用いられているのは印象的だ。もっともこのときは,トラックボールの軌跡,そしてピアノから飛び立っていく光柱として現れている。その後,岩井氏はライブ・パフォーマンスでも類似の作品を作っている。

 次のマイルストーンになるのが1997年に発表した「音楽のチェス」だ(写真4)。チェス盤の上にビー玉を置いていく。タイムラインがチェス盤を移動していき,ビー玉のあるところで音が鳴る仕組みだ。手には載せられない,据え置き型のTENORI-ONと言えなくもない。

 一方,TENORI-ONの形や動きは,演奏する姿を含めた,奏でられるものとしての見栄えの追求から生まれた。岩井氏は,古来から伝わってきた楽器は,楽器そのものの形,そして演奏者を含めた演奏風景は美しいものだ,という。ところが楽器のデジタル化が進み,今やもっとも多く使われている楽器はノート・パソコンになった。パソコンに向かってキーを叩いている姿は味気ない。そして,冒頭の「新しい楽器を生み出す力は弱くなってしまったのではないだろうか」という問題提起になる。

 これに対して,今までにない楽器を作ろうとヤマハと共同開発を進めてきた結果がTENORI-ONとして結実した。正方形という形,ヘアライン仕上げのマグネシウム・ダイキャスト・ボディ,演奏を見せる楽器として裏面にも付けられたLEDなどがこだわりのポイントだ。

 「まだアーティストが存在しない楽器」(ヤマハの梅村充社長)はかくして誕生した。TENORI-ONが,既存のアーティストだけでなく,これまで楽譜を読めずに楽器演奏をあきらめていた層をどこまで取り込めるか。新デジタル楽器は創造者の手を離れ,市場の評価に委ねられる。

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動画 コンセプト・メーカーが明かすTENORI-ON誕生まで(約4分の動画)
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