以前から議論の多かったいわゆるビジネス・メソッドの特許性(日本では通称,ビジネス・モデル特許)が,再び米国の知財関係者の注目を集めている。いわゆるBilski裁判において,米国特許審判所の判断を不服としたBilski氏が2008年2月に控訴したのを受け,連邦高裁がビジネス・メソッドの特許性について再考することになったからだ。

 Bilskiのケースに触れる前に,ビジネス・メソッドの特許性に関する米国裁判所の基本的な考え方や代表的な判例について紹介しておく。米国特許法101条では,発明が新規かつ有益な(1)プロセス,(2)機器,(3)製造,(4)組成物である場合は特許の対象になるとしている。すなわち,発明が上記4つのカテゴリーに当てはまらなければ特許の対象にはならない。米国特許法100条は方法(メソッド)もプロセスに含まれると定義しているものの,判例では抽象的概念や自然法則,数学的アルゴリズムに関するものは特許の対象としては認められないということになっていた。

 しかし1998年,StateStreet Bank & Trust Co. v. Signature Financial Group, Inc.において連邦高裁は投資信託の管理を行うデータ・プロセスのシステムは数学的アルゴリズムを用いているが,特許の対象になると判断した。その根拠は,用いられている数学的アルゴリズムが単なる抽象的アイデアを示すものではなく,それによって行われるデータの転送が具体的な金額を示し,かつ「有益,具体的,有形な結果」を生むアプリケーションだからである。ただし,この判例では純粋なビジネス・メソッド,すなわち,機器などと関連づけずに方法のみを記載した請求項自体が特許の対象になるとは判断していない。

 さらにAT&T Corp. v. Excel Communications, Inc.の裁判では1999年,数学的アルゴリズムを用いた「方法」に関して一歩踏み込んだ判断が下された。この裁判で問題になった発明は遠距離通話のためのメッセージ記録の方法である。連邦高裁はAT&Tの発明が特許の対象となるかどうかを判断するためには,数学的アルゴリズムを実行するための方法,たとえば,データのやりとりや処理の方法が具体的に示されているかどうかが焦点となるとした。

 2007年,Comiskey裁判においては,コンピュータなどの機器と結びつかない,純粋なビジネス・メソッドが特許の対象となるかどうかが審理された。このとき問題になった発明は,遺書や契約書などの法的文書が係わる調停の方法に関するものだった。連邦高裁はこの調停方法自体は単なるメンタル・プロセスであるとし,特許の対象にならないと判決を下した。さらに,こうしたビジネス・メソッドに関して,単なるデータ収集のためにコンピュータを用いるだけでは特許性を与えないとしている。一方で,抽象的アイデアや数学的アルゴリズムであっても(1)特定の機器と結びついている,または(2)物質を異なる状態あるいは物に変化させるのに用いられる場合,101条でいう「プロセス」に分類し,特許の対象とみなすことができるとした。