そして,現在審理中のBilski裁判。米国特許審判所では,Bilski氏が特許申請した,固定価格で販売される商品に伴う消費リスクを管理する方法は特許の対象とならないと判断した。これを不服としてBilski氏は連邦高裁に上告した。米国特許審判所の審判の根拠は,問題となる請求項にはデータを処理する具体的な機器が記載されておらず,また,具体的にどのように各ステップを実行するのか記載されていないので,101条で示されている「プロセス」には当てはまらず,単なる抽象的アイデアでしかないということである。

 現在,連邦高裁における審理の焦点は
(1)Bilski氏の請求項が101条の下で特許の対象となるか
(2)あるビジネス・メソッドが,101条で特許の対象とされる「プロセス」に当てはまるかどうかを決める基準は何か
(3)請求項が心理的ステップと物理的ステップの両方を含む場合,心理的ステップを含むことを理由にその請求項は特許の対象外とされてしまうのか
(4)特許の対象となるためには,その特許の示す方法・プロセスが具体的な機器や物の物理的な変化と結びついていなくてはいけないか
(5)StateStreetおよびAT&T の判例を再考すべきか
という点である。

 StateStreetは,ビジネス・メソッド特許に道を開いた裁判といわれているが,実際に問題となったのはシステムに関する請求項であって,方法・プロセスの請求項に関して議論されたわけではない。また,数学的アルゴリズムを用いているといっても,具体的な数式が記載されているわけではない。しかし,システムを構成する機器がある程度具体的に示され,数的データを処理する方法もある程度具体的に記載されている。

 一方,Bilski氏の請求項は数的データを扱う方法を記載してはいるものの,米国特許審判所が指摘しているように,何ら機器を用いなくても実行できるように記載されており,また具体的なデータの処理方法が記載されていないので,特許として許されるとしたら,その特許がカバーする範囲は非常に広くなってしまうであろう。つまり,どんな機器を用いてどのようなデータのやりとりをしようがどのようにデータを処理しようが,その特許の範囲に入ってしまうことになる。

 もともと,米国特許庁はビジネス・メソッド特許を歓迎しない傾向があった。やはりここで,ビジネス・メソッドが特許の対象となり得るかを判断するためにどのような基準を設けるべきか検討し,明示すべき時期が来たといえ,どのような結論が得られるのか興味深い。