Intel社Director,Global Ecosystem Programs,Mobile Internet DevicesのPankaj Kedia氏
Intel社Director,Global Ecosystem Programs,Mobile Internet DevicesのPankaj Kedia氏
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 米Intel Corp.でMID(mobile internet devices)に関するGlobal Ecosystem Programsを担当するDirectorのPankaj Kedia氏にインタビューする機会を得た。主たる事業であるパソコン向けマイクロプロセサに比べ,新しい市場であるMIDに対し,どの程度本気なのかを中心に話を聞いた。

——Intel社の技術力であれば,もっと以前からAtomのようなプロセサを開発できたのではないか。これまで英ARM Ltd.製のコアを採用した「XScale」を製品化していた(2006年に米Marvell Technology Group Ltd.に売却)。それがなぜ,ここにきてモバイル向けのマイクロプロセサなのか。

Kedia氏 ちょうど三つの条件が重なった。まずインターネット・ユーザーの急拡大だ。世界中で13億人が利用している。動画などを即時に共有できる環境が整った。二番目が無線ブロードバンドの普及だ。携帯電話網が3Gからその先に進みつつあり,WiMAXも出てきつつある。3番目が技術の進歩だ。マイクロプロセサだけでなく,HDD,ディスプレイ,無線部品,いずれも小型・低消費電力化が進んだ。まさにこのタイミングに合わせて,新しいマイクロプロセサが必要となった。

——XScaleではなぜダメなのか。

Kedia氏 互換性だ。インターネットの多くのコンテンツは,パソコンで開発されている。Atomの開発は2004年からだが,当初からインターネット・コンテンツの互換性を意識してきた。フルサイズのインターネット・コンテンツを,書き換えることなくモバイル環境で利用できる。これこそがIntel社が描いていた姿だ。

——しかし,Intel社にとってAtomは傍流のプロセサではないか。あくまでも本業はパソコン向けのマイクロプロセサで,Atomは片手間ということにならないか

Kedia氏 Intel社はAtomの市場を大きく四つ考えている。一つがMID。もう一つが「Diamondville」(開発コード名)で対応するNetbookやNettopといった,言わばインターネット専用パソコン。三つ目が機器に組み込む用途で,このために7年間のサポート期間を設定している。4番目がSoC(system on chip)による,セットトップ・ボックスなど家電向けの市場だ。それぞれ,今後5年間で100億米ドルの潜在市場だと考えている。これだけの大きな市場を,片手間にしてむざむざ見逃すことは考えられない。本気で取り組む価値がある市場だ。

——今回発表したMID向けのプラットフォーム「Menlow(開発コード名)」では,スマートフォン市場は対象にしていない。次期プラットフォーム「Moorestown(開発コード名)」で参入するとしている。その理由は。

Kedia氏 主として消費電力にある。まだスマートフォンに適用するには,消費電力が大きすぎる。現在は2年前のノート・パソコンと同等の性能を,10分の1の消費電力で再現した段階だ。次のMoorestownでさらに消費電力を10分の1にして,携帯電話機をターゲットにしていく。詳細なスケジュールについては,今年の後半になれば説明できるだろう。

——MIDに関しては,OSとしてLinuxをずいぶん推進しているようだが。パソコン用OSとしては,Linuxは使い勝手などを含めてWindowsを超えることができなかった。MIDでは問題ないのか。

Kedia氏 パソコンでLinuxが成功できなかった理由は,企業ユーザーの存在が大きい。システム管理者は,複数の利用形態が混在することを好まない。WindowsとLinuxがクライアントとして混在していたら,管理が面倒になるだけだ。また「Outlook」や「PowerPoint」など,多くのアプリケーション・ソフトウエアがWindowsだけで動いている。これらの利用者が多く,変化は起きにくい。
 しかしMIDに関しては,対象が一般消費者だ。IT部門が導入を決定するわけではない。WindowsかLinuxかで選ぶのではなく,ユーザーが触って気に入るかどうかで,購入が決まる。
 LinuxにはWindowsにはないメリットがある。小型化できるし,安価だ。動作もWindowsより軽い。消費者向けに焦点をあてたユーザー・インタフェースを構築しやすい。もちろんWindowsが動くMIDも存在するだろうが,主として企業ユーザーを意識したものになるだろう。