報道陣からの質問に答える鈴木氏
報道陣からの質問に答える鈴木氏
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 スズキが2007年度(2007年4月~2008年3月)の連結決算を発表した場で,同社会長の鈴木修氏は質疑応答を通じ,2008年度以降の見通しや自社の課題,コスト削減の方針などを語った(決算に関するTech-On!の関連記事)。同社では,ここ10数年の急激な成長に伴い,技術者の不足といった“歪み”も出始めたという。以下に,一問一答をまとめた。

——2008年度の連結決算は減収・減益(横ばいに近い)だが,今後3年間では増収・増益と見込んでいる。増収・増益に再び転じるという根拠は何か?

鈴木氏:2008年度が横ばいである要因は,北米市場の景気後退や原材料費の高騰,円高といった外部要因と,当社固有の要因(北米市場における営業の不調)とがある。2007年度は前年度比で約3400億円の増収,その前の4年間はそれぞれ約2500億円ずつの増収と,極端な右肩上がりの成長を続けてきた。2008年度は内容の見直しをしなければならないと思っている。ただし,立ち止まることは衰退につながるとも言われるので,止まらずに内容の充実を図るつもりだ。そうすれば,再び飛躍できるのではないか。

——北米の景気に対する見通しは?

鈴木氏:景気のことは私どもは分からない。極端な円高に振れることはないという前提で,3カ年計画も策定した。北米市場に関しては,当社固有の問題もある。米国法人では,業績の拡大を前提に人を大量に採用していたからだ。サブプライムローンがどうこうというよりは,米国法人の問題だ。ただし,当社は米国市場の売り上げ比率が相対的に低いので,問題の解決はそれほど困難ではない。立ち直りも早い。

——「内容の見直し」とは,これまでの成長のスタイルを変えるということか?

鈴木氏:そういうことだ。インドでは,タタさん(インドTata Motors社)がああいうクルマ(編集註:「Nano」を指していると思われる)を出してきた。これに対応するには,どうするのか。まともに(対抗モデルを)ぶつけるのか,ぶつけないのか,ほかを伸ばすのか,いろいろなことを考えるチャンスだと思っている。

——先日,ダイハツ工業と富士重工業が軽自動車のOEM供給で提携を結んだが,どのように考えているか?

鈴木氏:当社にはあまり関係ない話だ。OEMということでは,当社も日産自動車やマツダに供給している。似たようなことであり,それほどびっくりするようなことではない。

——相良工場(静岡県牧之原市)での車両組み立てが始まる。抑えている軽自動車の生産を元に戻せるのはいつになるか?

鈴木氏:現在も(登録車の)「SX4」「スイフト」「エスクード」が好調で,生産能力はギリギリ。(湖西工場からSX4を移管する)相良工場の稼働開始は2008年10月で,フル稼働になるのは早くても2008年末。移管は,新車の生産立ち上げ以上にもたつくもの。慎重に判断すれば,本当のフル稼働は2009年3月あたりになるかもしれない。また,インドやハンガリーにおける生産能力を増やすことでも対応したい。とはいえ,軽(に余力を回せるようになるの)は2009年中は難しい。

——技術者数が急激な成長に追いついていないのではないか?

鈴木氏:この件は反省している。人材育成の問題が,30年後に影響するとは思わなかった。昭和50年(1976年)前後,排ガス規制の対応で失敗したことから,大卒の採用をほとんど中止していた。(このとき大卒技術者を継続して採用していれば)今55歳くらいの年齢になる,一番いいところの人材が確保できていたのだが。役員も,40代後半の人材を引っ張り上げないと埋まらない状況だ。大卒,特に技術者は定期的に採用しなければならないと思っている。現在,2カ国や4カ国で同時に新型車を立ち上げるということをやっているが,そのようなことは(技術者数の面で)なかなかできる芸当ではない。設計も生産技術も足りない。とはいえ,一度に大量に採用しても質が下がるだけで,採ればいいというものでもない。

——3カ年計画においてインドの販売台数はどの程度を見込んでいるのか?

鈴木氏:早く100万台にしたい。3カ年計画の最終年度(2010年度)にやっと達成するのでは物足りない。2007年度が約77万台だったので,可及的速やかに達成することを狙う。

——2008年度は「見直し」ということだが,その次の一手は何か?

鈴木氏:この一手がなかなかないから困っている。さぁどうしようかというのが現状。みんなで知恵を絞らなければならない。

——生産拠点や市場としてのロシアをどう考えているか?

鈴木氏:ロシアに関しては,調べれば調べるほど問題が多い。慎重に進めることを考えている。

——「Kizashi 3」ベースの大型車(Dセグメント)を北米市場に投入するが,ほかの市場に関しては予定はあるか?

鈴木氏:世の中挙げて「小さなクルマ」の時代に,あのような「大きなクルマ」で大丈夫かという指摘を受けているが,インドや中国,欧州など当社が比較的優位に立っている市場では,ある程度フルライン的なラインアップを用意しなければならないのは事実。インドでは,25年前に出した「Maruti 800」に乗った人が「Alto」に乗り換え,Altoに乗った人が「Swift」,さらに「Swift」のディーゼルエンジン版,「SX4」と,だんだん上に行く流れができている。それから,小さいクルマばっかりやっていて,大きいクルマはよそのメーカーというのでは,油揚げをさらわれているようなもの。(成功するかどうかは)やり方次第だと思う。自動車は,大量生産によるコスト削減が可能な商品。どれだけ小回りをきかせて成功できるか,これからの舵取りが難しくなってきたともいえる。

——コスト削減をどう進めていくか?

鈴木氏:社内でもよく言っているが,設計段階で意識してやらないと後ではどうにもならない。設計段階で部品の共通化を図るということが重要。設計段階でのコスト削減は,部品の共通化や新材料の導入ということ。残された部分を現場で見直していく。

——2008年度の業績見通しは,横ばいという認識か,それとも減収・減益という認識なのか?

鈴木氏:会社(の経営)は減益を承知でやるようではダメ。従業員がたるんでしまう。嘘でもいいから上向くと書きたいところだが,原材料費が高騰していて,為替も変動していて,米国で問題を抱えているときに,そんなことは書けないので,これくらいのところにしている。これ(見通し)を上回るつもりでやらねばならないと考えているのは事実だが。

——軽自動車のシェアでダイハツ工業にさらに水をあけられたが,追いつくのが大変になったのでは?

鈴木氏:当社は追っかけても追っかけられてもいないと思っている。独善的に思われるかもしれないが,当社は当社なりのペースでやっていく。むしろ前を向いて歩くことが重要だと思っている。