継続中の特許裁判で業界関係者の注目を集めているのは,台湾Quanta Computer Inc.(以下,Quanta)と韓国LG Electronics Inc.(以下,LGE)の係争だ。この裁判の焦点になっているのは,特許権の消尽(Tech-On!用語辞典)の範囲。判決が下れば,今後のライセンス契約に大きな影響を与えることになりそうだ。以下,その概要を紹介する。

 米Intel Corp.はLGEの所有するパソコンのシステム・方法に関する特許権に関してライセンス契約を結んでいた。このライセンス契約では,Intelは特許化されたシステム・方法を実現するためのマイクロプロセサあるいはチップセットを製造,販売できるが,LGEの許可なしにIntelの製品以外と組み合わせることはできないという制約的条件が付与されていた。また,Intelはそのマイクロプロセサやチップセットを第三者に販売する際に,LGEの許可なしにIntelの製品以外と組み合わせることはできないと警告を付ける義務があった。Quantaを含む数社はIntelからその警告表示がある製品を購入し,LGEの許可無しにIntel以外の部品と組み合わせてパソコンを製造,販売した。そこで,LGEはQuantaらを特許侵害で訴えた。

 カリファルニア州北部連邦地方裁判所は,Intelの製品自体はライセンスされた特許でカバーされていないとしながらも,ライセンスされた特許がカバーしているシステム・方法の重要な要素なので,Intelとのライセンス契約の時点でLGEの特許権が消尽したと判断した。しかし,控訴審は地裁の判決をくつがえし,LGEとIntelのライセンス契約に制約的条件が含まれていることに焦点をしぼり,特許権の消尽は適用されないとした。Quantaらはこの判決を不服として上告。現在は最高裁で争われている。

 そもそも,特許権とは一定の期間,特許化された技術を独占的に製作,使用,販売などができる権利である。ただし,特許権所有者が特許化された技術を用いた製品を売った場合,相応の対価を受け取るので,売った製品に対しては特許の独占権を失う。これを特許権の消尽と呼ぶ。特許権消尽の根拠の一つは,特許による利益の二重取りを防ぐことにある。この消尽の概念により,特許所有者から製品を買った者は特許侵害の恐れなく,買った製品を使ったり,第三者に転売したりできることになり,購入した第三者の使用も特許侵害にはあたらないとされる。特許のライセンス契約も特許権所有者が相応の対価を得るため売買契約と同様とみなされ,ライセンス契約の下に製造した製品に対して特許権所有者は独占権を失う。したがって,ライセンス契約の下に製造された製品を第三者が購入し,使用しても,特許侵害にはならない。

 ただし,これは売買契約あるいはライセンス契約に制約的条件がない場合であって,制約的条件を付けた場合はこの限りでないとされていた。その根拠の一つは,制約的条件の有無に応じて特許の対価が変わり得ることによる。制約的条件がない場合よりも,制約的条件がある場合のほうが,対価が低く抑えられるため,特許権所有者はその特許権が消失するのに十分な対価を得たとはいえなくなるからである。

 ここで問題なのは,特許権の消尽を防ぐための制約的条件はどこまで許されるかということであろう。例えば,(1)特許化された技術を用いた製品の使用や製造,販売に時間的,地理的な制約的条件あるいは使用目的に関する制約的条件を付加する場合と,(2)LGEとIntelのライセンス契約のように,二次的購入者の使用に関して制約を加える場合とは性質を異にする。前者では特許権の対価を購入者/ライセンシからのみ受けることができる。一方,後者では,ライセンス契約のもとで受け取るロイヤリティのほかに,ライセンス契約で製造された製品の使用者からさらにロイヤリティを受け取ることができることになり,特許権の対価を二重に取る行為といえる。

 特許権の独占性は,独占禁止法とも絡む問題であり,最高裁が特許権の独占性の維持に関してどうのような判断を下すか,注目するところである。