Firmoの送信機(左)と,組み込み用受信機(右)
Firmoの送信機(左)と,組み込み用受信機(右)
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組み込み用受信機
組み込み用受信機
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非接触ICカードによる認証は動作が多いが,Firmoではドアノブを握る動作で認証ができるという。
非接触ICカードによる認証は動作が多いが,Firmoではドアノブを握る動作で認証ができるという。
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 NTTとNTTエレクトロニクスは,人の体の表面などを伝送路とする人体通信技術「レッドタクトン(RedTacton)」を実用化したと発表した(RedTactonについての関連記事)。この技術を用いた入退室管理用の認証システム「Firmo(フィルモ)」を開発,その評価用キットのサンプル出荷を2008年4月23日に開始した。サンプル価格は,組み込み用受信機1個とカード型送信機5個,および受信機用タッチ・プレートのセットで80万円である。

 今回のNTTの人体通信技術は容量結合方式を利用している。これは,人体に電流を流すのではなく,人体表面の電位の変化を利用して情報を伝送する方式である。体だけでなく服やゴム底の靴といった絶縁体があっても伝送できるのが特徴だ。

 Firmoは,7mm厚のカード型ID送信機と,センサ電極を備えた受信機からなるシステム。送信機は,カード内に記録したID番号を約230kビット/秒で繰り返し発信している。例えば,この送信機をワイシャツのポケットなどに入れて,入りたい部屋のドアの前に立てば,このID番号の情報がワイシャツから人体や靴底を通して,ドアに組み込んだ,あるいはドアの前の床に敷いた受信機のセンサ電極に伝わり,IDを認証できるという仕組みを作ることが可能である。

タッチ動作が不要でしかも安全

 入退室用の認証システムには,既に各種の方式がある。例えば,SUICAやICOCAといった非接触ICカード方式を利用するものや,自動車のキーレス・エントリのように短距離無線を利用するものなどである。ただし,非接触ICカードは,カードを特定の認証用リーダーにタッチするという動作が必要で「それが面倒という声を多く聞いた」(NTT)。Firmoでは,ユーザーは送信機をポケットなどに入れて,受信機があるドアの前に立つ,あるいはドアノブを握るだけで認証が完了する。

 短距離無線は,本来のIDの持ち主が数m~数十m離れている間に,別の人がドアを開けることができるので,セキュリティ面での懸念がある。この点,Firmoでは,送信機からの信号が届く範囲が「人体や服の表面から数mm~数cm」(NTT)にとどまっているため,セキュリティがより高いという。Firmoの名前は,こうした信号の届く範囲が体にまとわりついている様からつけたという。「Firmoは,fairy(妖精) motion(動き)の略で,妖精のように動くというイメージ」(NTT)。

伝送には短波帯の周波数を利用

 カード型のID送信機は,電池で動作し電池寿命は約1年。市販の電池を使っており,ユーザーが自分で電池交換できるという。通信には5MHz帯の搬送波を利用する。これはアマチュア無線などが利用する短波帯に相当するが,「出力は微弱電波の規定より20dBも小さい。加えて,電極構造を工夫しており,電波を発射しない設計にしたため,影響はないはず」(NTT)という。

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