生育段階に合わせて温度や換気量が変化

 コッコマイコンは,センサーで鶏舎内と外気の温度を監視しながら,吸気用および排気用のファン,室温を上げるためのブルーダー(暖房器),冷却用のミスト・クーラーなどを制御する。このために,16ビットのマイコンを搭載した制御ユニットと,8チャネルのアナログ入力ユニット6基が組み込まれている。制御の条件設定やデータの監視には,外部に接続したパソコンを使う。電話回線を使って自宅など遠隔地から温度を監視したり,設定を変更したりすることもできるように設計されている。このほか,養鶏農家の人々の作業負荷を軽減するための様々な機能を盛り込んだ。複雑な鶏舎の温度管理とともに,こうした様々な機能を実現するためにマイコンが役立っている。

図2 飼育状態や管理状況をグラフで表示
図2 飼育状態や管理状況をグラフで表示
左は,コッコマイコンのモニタ画面。ファンの出力を表す周波数,実際の温度と目標温度,ミストやブルーダーの状態,エサの消費量などを鶏舎ごとに表示する。右は,ファンやブルーダーの稼働状況を表すグラフ。

 コッコマイコンが提供する機能は,大きく三つある(図2)。第1は,温度管理。鶏舎内が寒い時はブルーダーの出力を上げる。暑い時は外気を取り込むファンの回転数を上げたり,ミスト・クーラーを稼働させたりして温度を下げる。こうした制御の基準となる温度は,鶏の生育段階に合わせて自動的に変わる。マイコンが生育を始めてからの日数を算出し,あらかじめ用意されているデータ・テーブルから,その日数に対応した基準温度を選ぶ。温度だけでなく,鶏の成長に合わせてファンの回転数を変えて換気量も自動的に変える。鶏が成長するに従って呼吸量が変化するからだ。「マイコンを使うことによって,人間が機器を調整するよりも正確に制御できるので,光熱費の無駄を減らすことができるでしょう。ブルーダーやミスト・クーラーを一度設定したまま放置してしまい,温度を上げ過ぎたり,下げ過ぎたりといった人為的な事故も防げます」(井坂氏)

エサの消費量を正確に把握

 第2の機能は,エサの管理。エサの消費量は,鶏の体調や育成状況を把握するうえで重要な情報である。そこで多くの養鶏農家では,エサを貯蔵するホッパーから鶏舎までエサを搬送する給餌機の稼働時間で,エサの消費量を把握している。ところがホッパーから鶏舎までエサを運ぶ途中で,パイプが詰まるなどの問題が生じると,給餌機の稼働時間と実際のエサの消費量との間に差が生じてしまう。そこでコッコマイコンでは,こうした誤差を排除して,エサの消費量をできるだけ正確に把握できるようにした。具体的には,給餌器の異常を検出し,給餌機が正常にエサを鶏舎に供給している間だけを稼働として計測するようにした。さらに,育成期間中のエサの累積消費量を正確に把握するために,異常値を補正する仕組みも盛り込んだ。あらかじめ毎日の予測消費量の推移をシステムに記憶させておき,ある日に測定した実際の消費量がこの予測消費量から著しくかけ離れている場合は,異常値として排除する。異常値が発生したときには,実測値の代わりに予測値を,その日の消費量として累積消費量に加算することで誤差を抑えるようにした。「エサの消費量が正確に把握できるので,ホッパーがいつの間にか空になっていたというような事故を防ぐことができます」(井坂氏)。

 第3の機能は,異常時の警報。温度や給餌機の管理をマイコンで自動化するとは言っても,養鶏農家にとってはやはり気が気ではない。そこで停電などで異常が発生した場合は,電話回線を通じて指定した電話番号に警報を発信する機能を組み込んだ。音声合成システムを利用して,どの部分に異常が発生したかも音声で伝える。

コッコマイコン導入の成果が実際の数字に

 コッコマイコンを導入している養鶏農家は,まだそれほど多くはないのが現状だ。だが,導入した養鶏農家では,着実に効果が表れているという。例えば,多くの養鶏農家は,「プロダクションスコア(生産指数)」と呼ばれる指標でブロイラーの生産性を評価する。この数値が高いほど,良質のブロイラーを数多く,短期間かつ効果的な給餌で育てたことになる。「コッコマイコンを導入した農家では,いずれもプロダクションスコアの数値が上がりました」(井坂氏)。

 第1次産業では,「勘」や「経験」を基に自然の動きを判断したうえで進める作業が少なくない。こうした作業のノウハウや技術を,プログラムに盛り込むことができれば,この分野におけるマイコンのアプリケーションは,一段と広がる。その一つの例が,コッコマイコンといえよう。