井坂威人氏
井坂 威人 氏
山武
ビルシステムカンパニー
第二営業本部イー・エス・ディ部
マネージャー

 自然と密接にかかわる第一次産業において,エレクトロニクスを導入して人手に頼る作業の合理化や省力化を進める動きが始まっている。こうした動きに貢献するためにマイコンを利用した様々なシステムが提案されている。山武が開発した養鶏舎管理システム「コッコマイコン」も,その一つだ(図1)。ブロイラー(肉用養鶏)を育成する鶏舎の環境を制御し,安定した生産性を確保するためのシステムである。ブロイラーの場合,成長過程に合わせて管理条件が刻々と変わる。こうした複雑な制御を実現するためにマイコンが活躍している。

 計測および制御の技術を得意とする山武は,ビル管理システムや生産システムなどを提供し,様々な分野における効率化に貢献している。その中で養鶏農家に向けて展開しているのが「コッコマイコン」である。もともとは同社の子会社で農業向けに温室環境制御システムなどを提供していたイー・エス・ディが開発したシステムである。山武は,2007年8月にイー・エス・ディを吸収合併しており,現在はビルシステム事業の一環として山武が「コッコマイコン」を提供している。

図1 山武の養鶏場向け鶏舎管理機器「コッコマイコン」
図1 山武の養鶏場向け鶏舎管理機器「コッコマイコン」

 コッコマイコンの開発が始まったキッカケは,野菜を育てる温室の温度管理にイー・エス・ディの温室管理システムを使っていた野菜農家からの要望だった。その農家は,野菜の栽培以外に養鶏も営んでおり,鶏舎の温度管理に苦労していた。この話を聞いた同社は,新しいビジネス・チャンスになると,養鶏舎管理システムの開発を始めることにした。

 当初同社は,既存の温室管理システムを基に,鶏舎管理システムを開発しようとした。ところが,開発に着手してみると,そのアプローチでは,養鶏農家が望んでいる機能を備えた鶏舎管理システムがなかなか実現できないことが次第に明らかになってきた。「長期間にわたるサイクルで温度を管理する鶏舎と,1日単位で温度を管理する一般の温室では,温度制御の考え方は根本的に違っていました」(山武ビルシステムカンパニー第二営業本部イー・エス・ディ部の井坂威人マネージャー)。

 養鶏農家では通常,雛を仕入れてから約60日間かけてブロイラーに育てて出荷する。その間,鶏舎内の温度を一定にしておけば済むというわけではない。寒さに弱い雛の間は,室温を30度強に維持する必要がある。その後,成長につれて最適な温度は下がる。出荷間近の鶏では18度が適温とされる。こうした条件を守らないと,ブロイラーの肉の質が落ちてしまう。それどころか,鶏が死んでしまうこともあるという。

 しかも,室内が外部と仕切られている温室と違い,鶏舎は側面が開放されていることが多い。1つの鶏舎には1万羽~2万羽もの鶏が飼われているため,常に換気しないと,ふんから出るアンモニアが鶏舎内に充満したり,酸素が欠乏したりする恐れがあるからだ。だが,開放されていると一定の室内温度を維持するのが難しくなる。このため,多くの養鶏農家が鶏舎の温度管理に苦労していたわけだ。実際,60日間の生育期間中,鶏舎につきっきりで世話をする養鶏家も少なくないという。こうした理由で,野菜の温室向けの装置を基にしていたのでは,鶏舎向け管理システムが実現できないと分かった同社は,最初から鶏舎専用の管理システムの開発を始めることにした。そして2002年に登場したのがコッコマイコンだった。